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レスにしようか迷ったのですが、敢えて質問を立てます。 何でライトR-1820サイクロン9は単列なのに復列並み或いは以上に高出力が出せたのでしょうか? まさのり |
- R1820の排気量は29.87リットルで、栄の27.87リットルより大きいので、排気量が大きいからではないでしょうか。
もちろん、他にもいろいろとあるのでしょうが、専門外なのでよく分かりませんが、大排気量でしたら大馬力となると思います。
hush
- hushさん回答ありがとうございます。排気量ですと中島飛行機が模倣しパテント問題になった光(ハ8)は、サイクロンと同じ9気筒で36Lですが、公称馬力は7〜900馬力です。こうなると排気量以外、過給器辺りで馬力を稼いでいるのかなと思ったりします。
まさのり
- その光の参考にしたR1820E型は30リットルで575hpですね。これは民生用ですので出力も絞ってあると思いますが、1930年代初頭だとこの程度だったということでしょう。
hush
- >>2
馬力を稼ぐのは(計画上は)比較的簡単なのかなと考えてます。難しかったのは、実際に馬力を上げていっても不調にならないことかと。
光発動機のwikipedia曰く「一説では、「日本の技術力ではサイクロンをそのまま複製しても一割は出力が落ちるから、最初から排気量を一割増しにすればよい」とボア・ストロークを拡大したという。・・・中島では輸入した100オクタン燃料による限界試験を行い1,000馬力運転を試みたが、過給圧を上げると途端に不調となり全く届く事が無かった。」そうなので。過給機や中間冷却器⇒高空での出力の向上、、、そうなのかもしれませんが、難しいのはソコじゃなかったかもしれませんよと一言いいたくて投稿します。
質問に対して斜め方向のコメントですが、以下の傾向がいえると考えます。ざっくりですが。
・排気量=気筒ひとつの排気量×気筒数。
・膨張比が大きいほど効率は良くなる。
⇒排気量と効率が大きいほど大馬力。
つまり大馬力を求めるには、次の@Aがあるが、実際的には@が有効だと考えられる。(>>1の回答の通り。)
@排気量を大きくする。
A効率を良くする。(しかし時代毎の水準もあるし、膨張比も上限がある。)
たぶん次の方針で大排気量化が目指せるはずです。
a.気筒数を増やす
a-1)1段の気筒数を増やす。(振動対策もあるか?)
a-2)段数を増やす。
b.気筒ひとつの排気量を増やす
しかし単純な大排気量化には壁があります。
飛行機に積むことを考えると、前方投影面積なども気になりますが、実際問題として、単なるスケールアップではエンジンが壊れます。空冷エンジンでは特に熱問題がネックになるでしょう。(段数を増やし過ぎると後段に冷却風が当たり難くなります。気筒ひとつの排気量を増やすと、これも冷却が難しくなる。小さなコップのお湯と大きな風呂のお湯では、大きな風呂のお湯の方が冷めにくい奴です。)
では、大排気量化における熱対策・冷却問題はどう解決されてきたのか?
Wright社やP&W社では、一貫して気筒の冷却フィン面積の増大が追及されて来ている様子が窺われるそうです。フィンのピッチと深さを増加させ、材質にも工夫。ご質問にあるWright社では『Wフィン』がキーワードになる模様です。
という訳で、スケールアップは割と簡単かもしれないが、熱が籠りやすくなるので空冷は大変という話でした。R-1820が高馬力でも壊れなかったのは単列であったので空冷能力に優れていた、とも言えるかもしれませんね。
太助
- 同排気量なら多気筒の方が大馬力というのがエンジンの常識なのに、9気筒のR-1820サイクロンとほぼ同じ排気量のP&W R-1830ツインワスプは14気筒なのにほぼ同じ馬力ではないかというのが、ご質問の趣意だと思います。
しかも、サイクロンの最終モデルは1500馬力まで上がり戦後も長く使われたのに、ツインワスプは1350馬力止まりで戦後の機体には採用されていません。
馬力の向上については、まさのりさんの言うように過給器の性能向上もありますし、誉のように冷却フィンの枚数増加、燃料噴射の採用、ベアリングの改良による高回転化などがありますが、これらの性能向上策はツインワスプも同様に採用し得るものです。
根本的な違いとして、サイクロンは一体式マスターロッド・分割式クランクシャフトですが、ツインワスプは分割式マスターロッド・一体式クランクシャフトという設計にしており、ツインワスプの方式は強度や耐久性で不利なのだそうです。
これが原因で大馬力化に限度があったのではと思っています。
超音速
- シンプルにライトR-1820サイクロン9がロングストロークエンジンだったからではないですか?
排気量を増やせば出力が増えるというのはエンジンの最も基本的な法則みたいなものですが、その方法としてはシリンダー数を増やす方法とシリンダーそのものを増やす方法の二つに分けられます。
シリンダー数を増やすのは列型エンジンやV型エンジンなどシリンダーが縦に並んでいる形式ではクランクシャフトを長くせざるを得ず、するとクランクシャフトの捩じり剛性を確保するために太くせねばならなくなり、重量出力比が低下してしまいます。航空機用エンジンとしては致命的問題です。また、星型エンジンの場合は1段当たりのシリンダー数を増やせば直径が広がり、正面投影面積が増えて空気抵抗増加につながるため限度があります。また段数を増やせば後段になるほど冷却不足が問題になります。
シリンダーそのものを大きくするのはガソリンエンジンの場合はボアを大きくしすぎるとノッキングの危険性が出てくるため160mmぐらいが限界になります。ボアの限界にはすでにWW1の頃にはぶつかっていたので、あとはストロークを増やすしかありませんが、ストロークを増やすとやはりエンジンの正面投影面積が大きくなってしまいます。
しかしR-1820サイクロン9の場合は大型機用なので正面投影面積についてはある程度妥協することができ、小型機用のツインワスプがボアもストロークも140mm程度に抑えねばならなかったのに比べ175mmものストロークを確保できています。
ロングストロークエンジンはショートストロークエンジンやツインワスプのようなスクエアストロークエンジンよりも冷却効率が高く、シリンダー間の間隔も広いのでシリンダーの肉厚を増やしたり冷却フィンを拡大したりする余地もあり、1気筒あたりの出力向上策(過給圧上昇等)を受け入れる冗長性が高くなります。
おうる
- 超音速さん、おうるさん、参考になる回答ありがとうございます。
まさのり
- >>5と>>6で結構違うことが書かれている気がしましたが、小生には実際にはどちらが(もしくは両方が)ネックになったのかは興味ありますね。
>>6は理路整然とした内容ですんなりと腹に落ちました。感謝です。
>>5ではR-1830は大馬力化に限度があり、そのために戦後の採用がなかったのでは?とされていますが、これは後先が逆で、諸事情により戦後の採用がなく、そのために1500馬力化しなかった可能性もあるのではないかと思いました。諸事情とは、発注元の資金問題や、P&W社には他の事業に注力させたかった(発注元が、もしくはP&W社内で)とか、そもそも1500馬力のエンジン複数種が必要とされる環境になかった等の、技術的ではない事柄も頭に浮かびました。つまり、同年代ではR-1820とR-1830には技術的優劣は(無理やり比較すると)さほどなかったのではないかと、可能性ですけどね。「根本的な違い」とされた所も1350馬力と1500馬力の間にR-1830構造の限界値があるのかは解らないと思いましたが、何か資料があれば何方か紹介頂きたく。
以下は頭の整理がてらに。
『燃料&空気 ⇒ 熱エネルギー ⇒ 運動エネルギー』と順次変換していくので、極論すれば、『燃料&空気』を追加投入すれば馬力は上がります。ここで問題となるのがエンジンの耐力。各部に耐力以上の負荷がかかれば、当然エンジンは壊れます。
この馬力上昇に伴う耐力問題ですが、『負荷<耐力ならO.K.』とすると、負荷を分散して局所負荷を小さくするアプローチと、耐力を増加させるアプローチがあると考えます。
a) 負荷を分散
⇒排気量を増やすのが良いのではないでしょうか。回転数も関係するか。
b) 耐力を増加
常温箇所か高温箇所かで対処方法は異なると思います。
@熱が発生しない(温度が低い)箇所は、力に対応した部材厚さなどを確保すれば、エンジンも壊れないかと思います。例えば厚さ1mmでは壊れるが厚さ2mmにすれば大丈夫とか。エンジンは重くなりますが、力技(頑丈に作る)で対処できるかと考えます。
A熱が発生する箇所は、冷却が必要になる場合があります。冷却なしでも材料温度はどこかでは均衡しますが、高温になると強度が低下する材料が多くあり、今回お題のエンジンでは気筒部は空気で冷却していますね。冷却に頼らず@みたいに厚さを増すような力技で対応できるのかには興味ありますが、どうなんでしょうね。
太助
- >8
5の「ツインワスプは分割式マスターロッド・一体式クランクシャフトという設計にしており、ツインワスプの方式は強度や耐久性で不利」というのは、関連資料を読み漁っていた中で私も見ました。英文だったのと、今、探しても見当たらなかったので、これですと申せないのが残念です。
諸事情として考えられるのは、P&WにはR-2000ツイン・ワスプがあり、必要があればそちらを出して来たでしょう。2000立方インチ32774tと大きくなりますが、100/130グレードの航空燃料で1450hpを発揮していますからです。しかし、時代はジェット化の方向に舵を切ってますので、レシプロ機関に注力するわけにはいかなかったということが考えられます。実際、そういう流れに乗り損ねたカーティス・ライトは方向を修せざるを得ませんでした。
どちらが正しいのかなどということは門外漢の私に分かるはずもないですが、参考になれば幸いです。
hush
- 分割式マスターロッドは強度や耐久性に劣るという話は「悲劇の発動機誉」や世傑SE零戦・歴群零戦2に記述があります。
hushさん言及のR-2000「ツインワスプD」はR-1830のボアアップ版ですがマスターロッドは分割式のままです。
本格的な後継機R-2180「ツインワスプE」は一体式マスターロッドとなっていますので、分割式マスターロッドはもう限界というP&W社の判断を表していると思います。
超音速
- 戦後は1500馬力級の需要はそれほどなかったのではというご意見ですが、
P&W社は需要があると見込んでR-2180を開発したが、結果として見込みが外れたということです。
ダグラスDC-4(C-54)のR-2000エンジンの更新用、DC-3に代わる新しい小型旅客機用のつもりだったのですが、DC-4・3が寿命を迎えるころはすでに実用性の高いターボプロップが登場していました。
戦後に1500馬力のサイクロンを採用したのはグラマンS-2/C-1/E-1、パイアセッキH-21、シコルスキーHSS-1などですが、サイクロンに比べるとR-2000は一回り重く、R-2180はさらに重いため、これらの機の要求には合いませんでした。
超音速
- お二方フォローありがとうございます。
誤解があるようなので最初に断わっておきますが、一面において「分割式マスターロッド < 一体式マスターロッド」を否定しているんじゃないんですよ。これは良いんです。
R-1830が分割式マスターロッドの限界であったのかが疑問なんです。もっと平易な表現にすると「1枚の一体式マスターロッドよりも2枚の分割式マスターロッドの方が強い場合はないのか?」って感じですかね。例えば↓のような、分割式マスターロッドの2列星型エンジン:2150馬力耐久説を偽造しましたが、どう思われますか?
(R-4360は分割式マスターロッドだと思って書いてますが、ここが間違いだと仮説全部が崩れますので、確認をお願いします。)
【分割式マスターロッドは強度や耐久性に劣る(一体式マスターロッドに比べて) ⇒ O.K.】
これは良いんじゃないでしょうか。
根本的なところに疎いんで申し訳ないんですが、R-1820は1列、R-1830は2列なので、R-1830分割式マスターロッド1つにかかる負荷は、R-1820一体式マスターロッドにかかる負荷の半分程度で済むかと思っていました(同じ馬力を出したとして)。
R-2180EはR-4360ベースだとwikipediaにはありました。ちなみにR-4360は、4300馬力4列エンジンで分割式マスターロッド。
【R-1830は更なる出力増加はできない(分割式マスターロッドの限界で)⇒ ?】
仮にエンジン馬力を列数で割った値が、マスターロッドへの負荷への指標になるとすると、
・R-1820:1500馬力÷1列 = 1500(一体式マスターロッド)
・R-1830:1300馬力÷2列 = 650(分割式マスターロッド)
・R-4360:4300馬力÷4列 = 1075(分割式マスターロッド)
R-4360が分割式マスターロッドの限界あたりと仮定し、これの値を2列エンジンに適用すると、1075 × 2列 = 2150馬力くらいまではR-1830のマスターロッド構造も耐えたかもしれません。
R-1830はWEPもなかったともいうし、なんらかの限界はあったかもしれません。2列星型の1500馬力R-2180Eは一体式マスターロッドのようなので、利点も大きいんでしょう(2150馬力以上を狙ってたのかもしれませんが。)
しかし「しなかったことは、出来ないこととは限らない」と思うんですよね。
太助
- 太助様、ご指摘ごもっともです。
R-4360は分割式マスターロッドで1列あたり1000馬力近く出てるじゃないかというご指摘もそのとおりです。
問題はR-1830のマスターロッドなのです。
分割式マスターロッドそのものに馬力限界があるわけではないです。
強度不足なら肉厚に作ればいいからです。
しかしマスターロッドを肉厚にしようとするとクランクピンの幅を広げる必要があります。
そうするとクランク軸が長くなり、それはエンジン全体が別物となってしまいます。
だから実質マスターロッドの肉厚化は不可で、強度も限界があるのです。
R-4360のマスターロッドは初めから肉厚で設計されているので、強度限界がR-1830のそれとは違うのです。
あとは太助様がお書きになった、壊れないことが重要という点ですね。
限界まではまだ余裕があっても寿命を気にして馬力を上げないという判断もあります。
戦後は性能よりもコストが大事ですから。
戦後使われたC-47のR-1830は寿命を伸ばすため二段式過給器を一段式にしてデチューンする改造がよく行われました。
超音速
- 超音速さん、重ねてありがとうございます。
↓でいうところの、4本あるOのボルト周辺が壊れるんでしょうね。
https://www.enginehistory.org/Piston/P&W/R-1830/Cshaft.jpg
ボルトの材質か太さか形状か。何か差違があるかもしれないし、ないかもしれない。R-1830とR-4360の違いを比較したいですが、なかなかに手間がかかりそうです。
hushさんもありがとうございました。
小生は本件の手を休めますが、何か続報ありましたら教えてください!
太助
- https://www.aviationgifts.com/pratt-whitney-r-1830-polished-master-rod.html
https://www.aviationgifts.com/pratt-whitney-r-4360-master-rod-assembly.html
R-1830とR-4360それぞれのマスターロッドです。
R-1830用は厚さ3.5インチ、R-4360用は4インチと肉厚になっています。
超音速