18 戦艦主砲の対空射撃について質問です。
「零戦燃ゆ」の中で米戦艦主砲の射撃による水柱に艦攻が突っ込んで墜落してしまった、という記述があったように思います。
それに対し日本戦艦の対空射撃は機銃射撃の妨げになるばかりで
効果的だったという記述は見たことがありません。
自艦の未来位置に対し魚雷を発射しようとしている航空機の進路上に戦艦主砲を打ち込むことが
できるかも疑問です。
実際の戦艦主砲の対空射撃の効果についてご存知の方、お教え下さい。

toto

  1.  呼び水なので、間違えていたら申し訳ありません、と前置きした上で。

     日本戦艦の主砲対空射撃は、他国の戦艦よりもむしろ積極的なものであり、(戦記などを見る限りでは)実際に戦果も挙げているように思います。

     ちなみに、日本でも昭和14年頃までは、対空戦闘とは高角砲や機銃によるものであり、主砲を含む平射砲を用いることは考慮されていませんでした。しかし、発達した航空機の脅威に対抗すべく、搭載砲の全てを対空戦闘に使用するという構想がもたれるようになったという経緯があります。

     一連の試験や演習の結果、対水上用の平射砲でも(高角砲の射程外にある)中長距離の航空機に対する対空戦闘に、ある程度有効であることが確認されました。このことから平射砲用の対空用砲弾として(他国に類を見ない)、零式及び三式通常弾の開発・配備と、砲塔改修が進められたわけです。

     日本戦艦主砲による対空射撃は、当初は高角砲の射程外にある20キロ程度の航空機に対するものでしたが、大戦後半ではより積極的に「攻撃前に密集している敵編隊」に対する先制攻撃を考慮するようになりました。
     このため、対空用砲弾の時限信管も当初は最大秒時が55秒とされていましたが、レイテ沖海戦の時期には最大100秒程度まで延伸されています。

     これにより、大和型戦艦では最大35キロ程度の主砲対空射撃が可能となり、大和の戦闘詳報でも「主砲も分散前の来襲小型機、急降下爆撃機、水平爆撃機などに対して有効に使用できた」と記載されています。
     実際レイテ沖海戦中に、大和は69発、武蔵は58発の主砲対空射撃を行っています。各戦闘辺り1〜2回。最大3回程度の発砲です。また同海戦の戦訓として、B24に対する対空戦闘で「距離35キロ程度から主砲対空射撃を行えば、爆弾投下前に壊滅的打撃を与え得たものと認める」ともされています。

     つまり「自艦の未来位置に対し、魚雷を発射しようという航空機」に基本的に主砲射撃は行いませんけど、攻撃前の敵編隊に対する主砲射撃は可能であると見なされていましたし、実際に有効であると日本海軍は見なしていました。これに対し、零式・三式通常弾による確実な撃墜成果は確認されていないという説も見られますが、一方でマリアナ沖海戦時に長門が行った主砲射撃により、敵雷撃機編隊を撃墜したという証言もあります。
     ですから、ある程度の戦果もあったし、脅威にもなっていたと思います。

     ただし、日本戦艦であっても長秒時信管の配備が少ないとか、敵機が分散すると主砲では追従できないといった問題点、またご指摘のように高角砲や機銃射撃の妨げとなるという問題もあります(もっとも「高角砲の射程外」の目標を撃つわけですから、実際には棲み分けされていたわけですが)。む また、悪天候の場合は「遠距離射撃」に必要な観測が困難となるため、主砲は有効に使えなくなります。

     一方、米戦艦ですが、上記のような対空用砲弾の開発・配備は行われていません。米戦艦用主砲弾にも、榴弾は存在しますが、私の知る限りでは、これは陸上砲撃用のものです。

     また射撃システムも基本的には日本海軍のものと同様ですから、日本より大きく有効な対空射撃を行い得たとは思えません。水柱に艦攻が当たったのが、仮に事実としても、それは「不運な事故」だと思います。

     ちなみに射撃用レーダーを実用化したとされていますが、新型のMk.13であっても目標の方位・距離を自動的に探知・追尾するような性能はありませんし、射撃盤もレーダー情報に基づいて自動的に射撃計算を行うような性能は持っていません。ですから、光学照準と併用しなければ充分な精度は出ませんし、航空機を高精度で狙い撃つような真似は、不可能だと思います。
    高村 駿明

  2.  大戦末期の米軍の対空射撃は、遠距離8〜5kmで高角砲を撃ち、敵機を早々に低空側に追い込み(つまり先に降下加速を使わせる)敵機の速度と見張り能力を減じさせ(雷装してるので再上昇は至難で下は海面だから)逃げ場が無いという状況に追い込んだ後に、機銃で出迎えるという形を取ります。
     しかし機銃の射程は3kmほどなので、せっかく低空に追い込んでも暫くは手出しが出来ません。機銃射程に入る前に編隊を組みなおされたり、降下加速を利してのズームで再上昇されたり(機銃が届かないなら再上昇を狙い撃ちできない)等も可能性としてはありえます。よって高角砲を撃つついでに、その距離〜機銃射程間の海面ないし超低空に大口径を打ち込むのは、高角砲から逃げた敵機を牽制するのに有効な手段になるわけです。これなら大調定信管も要らないです(高角砲射程なので)
    SUDO

  3. そもそも戦艦主砲の対空射撃の場合、敵が遠くないと、発砲できません。
    有名な写真ですがこれを見れば一目瞭然ですね・・・

    http://www.ussiowa.com/Photos/USSIowaInAction08.htm

    対空射撃の妨げどころの話ではなく、対空砲座に人が居たら、普通に死ねます・・・・・・

    と、むかーしAnsQに書いた気がします・・・
    P-kun

  4. >2
     ご教授ありがとうございます。
     ちょっと疑問が生じたので質問させてください。
     雷撃機の速度が仮に370キロだとして、5キロ〜3キロの間を走破するのは19.4秒しかかかりません。仮に雷撃が1.5キロで行われるとしても、戦艦や重巡洋艦が主砲を発砲してから、10秒とかで退避した機銃員の再配置が可能なのでしょうか。それとも、米戦艦や重巡洋艦は主砲発砲時に機銃員の退避が不要なのでしょうか(大和では15.5センチ副砲でも、大きな被害を出しているくらいなので、8インチ砲でも危険だと思いますが、構造が違うとか?)。

     また、日本機への主砲照準はどのように行っているのでしょうか。精密照準が可能とは思えませんので、「牽制になればいい」と割り切って発砲しているということなのでしょうか。
     あと使用砲弾は榴弾で着発信管なのでしょうか。それとも、水柱が立てばいいと割り切って、徹甲弾を構わずに撃っているのでしょうか。
     長くて申し訳ないですが、ご教授頂ければと。
    高村 駿明

  5.  機銃員の退避なんて無いと思います。根性で我慢するだけでしょう。
     また日本でもアメリカでも、主砲は高射装置とも繋がりますし、極めて精度の良い方位盤射撃装置もあります。
     また榴弾には時限信管がつけられます。
    SUDO

  6.  ご教授ありがとうございます。
     根性とは、想像を超えていました。実際の戦果はわかりませんが、珍しく日本海軍の方が人道的に思えます。それで機銃員に被害が出たら、立て続けに攻撃機が来たら防げないようにも思いますが、さすがは米国ですね。

     なお榴弾には時限信管が付けられるとのことですが、つまり零式通常弾とほとんど同じことが可能ということでしょうか。
     米海軍も平射砲による日本のような長距離対空砲撃を考慮していたのでしょうか。それとも上記のような高角砲と機銃の隙間を埋める運用を想定していたので、そうしたことは考慮していなかったのでしょうか。
    高村 駿明

  7.  「主砲弾で水柱を立てろ」という戦術は、突入してくる雷撃機の進路上に水柱を上げて、最終突入時の進路妨害・あわよくば突っ込ませて撃墜を狙う、という方策の筈ですが…。因みにこれは日本艦もやっていたと回想する米側の搭乗員も居ますね。

     米の巡洋艦主砲による長射程対空戦闘は1944年頃に構想されており、VT信管付きの8in/6in砲弾の配備が大戦末期に実現しています。1945年以降建造された巡洋艦の中には、主砲方位盤に対空方位盤の機能が付与された艦もあります。

     
    大塚好古

  8. 皆様、回答ありがとうございます。
    日米それぞれの運用方針があり、それぞれ効果はあった、ということですね。
    考えてみれば巨大な主砲がこちらを狙っているのを見たら冷静に雷撃を行えるのは
    よほどの神経だと思いました。


    toto


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