70  連続質問失礼いたします。69に引き続きイタリア戦艦リットリオ級の質問です。

 学研の「世界の戦艦」によりますとリットリオの自艦主砲に対する安全距離は16000m以遠だそうですが、リットリオの舷側装甲が320o前後に相当するということは、一般に強力な貫通力を持つと評価される同艦の主砲は、傾斜8度厚さ320oの装甲を16000mまで接近しなければ撃ち抜けないということでしょうか?

 もしこれが真実ならば、単純に初速や砲弾重量を見るとアイオワに匹敵する装甲貫徹力を持っていてもおかしくない同砲がこの程度の貫通力しか発揮できないというのは、イタリア製の徹甲弾には何か問題があったのでしょうか? それともイタリア製の装甲の優秀性を物語っているのでしょうか?
因幡

  1.  リットリオの舷側装甲ですが、70+10+280ミリで360ミリ(世界の艦船570より)という説も見られますし、傾斜角度は11度という記述もあります(イタリア戦艦史)。

     また、イタリア海軍は他国海軍の砲身長の測り方が違います。尾栓前面ではなく、その前方から砲口までを砲身長としているために、他国の同種砲よりも、同一表記で2〜3口径分短いのだそうです(英15インチ42口径が100トン、米16インチ45口径マーク1が106.96トン、伊15インチ50口径が109.9トン。新式にしてはやたら重い砲なので50口径くらいありそうではありますが)。

     同15インチ50口径砲の貫通力は、砲口で815ミリ、18,288mで503ミリ、27,432mで381ミリとのことなので、16,000mなら傾斜320ミリ相当くらい簡単に抜けそうに思います。私見ですが、イタリア海軍は70+10+280ミリが何らかの根拠あって360ミリ相当だと思っていたのではないでしょうか。
     360ミリ相当だと考えていたなら、傾斜効果・対敵姿勢を鑑みれば、16,000mでの対応防御は成立していると言えるでしょうから。

     関係ないですが、リットリオ級は1門辺りの砲弾定数が徹甲弾19発、通常弾55発の合計74発しかないんですよね。戦時に増加搭載するのでしょうけど、驚きました。
    高村 駿明

  2. >砲弾定数
    砲身命数が100発も無いらしいですから、一杯積んでも生かせないのでは?
    それにしても、特に徹甲弾が少ないですね。
    きっど

  3. >2
     すみません。逆でした。徹甲弾55発、通常弾19発です。
     砲身命数はイタリアのことですから、カタログ値の話で、実質的には減装薬などで伸ばすのではないかと思います。さすがに計74発搭載というのはないと思いますけど、長期戦に自信がないということであれば、あの潔い退却も説明……できないですね。
    高村 駿明

  4.  レスをいただきありがとうございます。

    >360ミリ相当だと思っていたのではないでしょうか。
     プリエーゼ式水中防御のお国ですからその可能性もあるかもしれません。
     ですが360o相当だったとしても、リットリオの主砲は弾道が低く装甲を傾斜させてもパス長が伸びにくいこともあり、傾斜角8°ないし11°では500o以上に匹敵する防御効果にはならないと思います。
    因幡

  5. >4
     「第2次大戦のイタリア軍艦」にて興味深い記述を見つけました。
     「11度の傾斜を付けた水線部装甲は「250ミリの中間区画をおいて」外側70ミリと、内側280ミリの計350ミリ厚とし、対38センチ砲弾防御としている」とのことです。
     250ミリの中間区画が何を意味するのかは不明ですが、断面図を見る限り空間は空いていませんから、金剛型のようにパッキングウッド(51ミリ厚)を挟んでいるのであるのかもしれません。大和型の舷側装甲も410ミリの裏には同じ傾斜角度で16ミリDSが、長門型も305ミリの裏に25ミリの構造部材(材質不明)がありますしね。

     どういう素材であれ、250ミリもの厚さですから、防御効果があると見なしているのかもしれませんよ。また、傾斜装甲の裏側には、同じ傾斜角度で36ミリの弾片防御目的? と思われる板が置かれています。
     最大で70+250(の何か)+10+280+(空間が空いて)36ミリの計646ミリの物質が、傾斜8〜11度で配置されているとするなら、16,000mでの対応防御は成立しているということなのではないでしょうか。
    高村 駿明

  6.  あと、想像ですが、70ミリと280ミリの双方に表面硬化層があるのかもしれません。製鋼の本を見る限り、有利になるとは限らないようですが……。
    高村 駿明

  7. >6
     自己レスですが、ウィキペディアに外側70mm被帽破壊用硬化鋼、内側280mmのKC甲鉄で11度傾斜とありますね。70ミリで被帽は粉砕され、弾体を変形させるので、徹甲弾の貫通力は大幅に減少するという考えですね。
     ビスマルク級の320ミリ垂直+110ミリ傾斜装甲も、2枚目はほとんど抜かれていなかったらしいですし、同じ効果を狙ったのかもしれません。
     ビスマルク級(というか英、日などの既存戦艦の方式)よりも、艦内に破壊効果がいかない上に、装甲製造能力は280ミリ、70ミリのみで負担が軽い、という辺りがイタリアにとって魅力的だったのかもしれません。
    高村 駿明

  8. >7.
    >ビスマルク級の320ミリ垂直+110ミリ傾斜装甲も、

    その2枚目は防御甲板のタートルバック部分ですから、弾体破砕用のバースター・アーマーじゃなくて弾片防御用のスプリンター・アーマーだと思いますケド
    がんらい甲鉄は表面硬化層と中央〜背面の強靭層とが相まって耐弾力を発揮するモノですから、幾ら硬くとも板厚が薄くて全厚硬化では強靭姓が無くなり、命中時に甲鉄自体破砕しちゃうんじゃないでしょうか
    駄レス国務長官

  9. Battleships3分冊の枢軸国篇に拠りますと
    70mm(甲鉄)+10mm(鋼板)+250mm(空所air space)+280mm(甲鉄)+50mm(裏張り)+15mm(鋼板)となってますので、全厚675mm中いくばくなりとも耐弾力に寄与しそうなのは合計375mmですね
    あと同書の断面図に分度器を当てて見ますと傾斜は15度だってのが判ります
    (内方のスプリンターアーマーは36mmが15度で24mmがマイナス25度)
    効果ですケド、70mm甲鉄で被帽脱落(甲鉄と被帽で相討ちか)、280mm甲鉄で弾体破砕を図り、381mm新砲の16,000mからの実射で設計意図が確認された(ただし何発かは弾体破砕前に貫徹した)とのコトです
    あと主砲の定数は英でも1門当り平時80発、戦時110発程度です
    駄レス国務長官

  10. >高村 駿明様
     いろいろとお教えいただきありがとうございます。
     250oの間隙にナニモノかが詰まっているのではないか? というのは私も以前考えたことがあります。

    >駄レス国務長官様
     ありがとうございます。
     イタリア製の砲弾でイタリア製の装甲を撃った場合にはぎりぎりで16000mの安全距離が実現するのですね。
     ということは、この場合は高村様が提示された数値の65%程度の装甲貫徹力ということに……これが砲弾の低性能によるのか装甲の高性能によるのかは判断できませんが、矢じりと鎧の質というのは無視できない差を生むのですなあ。
     それにしても同じ艦の装甲の傾斜角について諸説あるとは不思議です。
    因幡

  11.  駄レス国務長官様、ご教授ありがとうございます。
     大変勉強になりました。

    >10
     傾斜角ですが、船体のラインの問題ではないでしょうか。
     ビスマルクや長門も砲塔によっては、やや傾斜装甲になっていますしね。
     8度の部分と11度の部分と15度の部分があるとか。

     リットリオ級の貫通力は世界の艦船増刊の「よみがえる戦艦」からです。

     原典は、Robert O.Dulin,Jr 他:United States Navy Capital Ship Dsign & Constryction During World War 2:S.N.A.M.E.1977、及び造船学会編「昭和造船史」第1巻(原書房、昭和52年)とされています。

     英14インチ砲45口径の貫通力が妙に低い(砲口で645ミリ、18,288mで284ミリ、27,432mで216ミリ。ドイツ279ミリ54口径砲の605/292/206ミリと変わらない)など、どうも信憑性に疑問があるデータなのですが。
    高村 駿明

  12. >>11の高村 駿明様
     恐らく「よみがえる戦艦」の貫通力は、砲弾と装甲の性能を無視している(米軍と同様とみなして計算してある)のだと考えられます。条件が違うだけでどちらが間違っているとかではないのでは。
     >>10の私の書き方ではまるで高村様が嘘を書いたのかのようで、失礼いたしました。

     多分、そのイギリスとドイツの貫通力の違いも条件の違いだと思います。どういう条件なのかは私にはわかりませんが、イギリスの砲弾でイギリスの装甲を撃ったデータ、ドイツの砲弾でドイツの装甲を撃ったデータ、砲弾と装甲をアメリカと同様とみなして計算したデータ、のいずれかではないかと推測されます。
    因幡


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