445 お疲れ様です。

画像を観て気に成ったのですが、南部系拳銃の刻印について、
1.南部式自動拳銃は刻印が(式部南 式陸)
2.十四年式拳銃は刻印が(十四年式)
3.94年式拳銃は刻印が(式四九)
と成っています。
各々それなりに軍の正式として採用された訳ですから刻印も基準があったのでは?と思うのですがこの違いは何の理由が有ったのでしょうか?
御教示いただければ幸いです。

マコト

  1. 質問点が明確ではありませんでした、申し訳ありません。
    表記が右書き、横書きの変化の理由を御教示願います。

    ちなみに、26年式拳銃は(二十六年式)となっています。

    十四や二十六は数値なので左書き
    九四は九四と言う名前なので右書き
    と言う事なのでしょうか?
    マコト

  2.  (皇紀25)94も、(明治)26、(大正)14と同じく、神武天皇即位紀元か元号かという違いはあっても、年号ですので、すべて数字です。したがって、左から書く左横書きと逆方向の右横書きが混在する理由は、名前か数値ではなく、別のところにあったと思われます。また、画像検索を行うと、(明治)38年式歩兵銃等は縦書きとなっており、陸軍の銃器の刻印は、左、右横書きに縦書きという3種類があったことになります。そして、このような混乱が起きている原因は、陸軍における基準が無かったか、基準が時代の中で変わったかのどちらかだろうと思われます。
     もっとも、右横書きは、扁額と呼ばれる横長の書に昔から見られ、左側に書家名や書かれた日等が縦書きされていることからも分かるように、1行1字の縦書きです。したがって、横書きと縦書きの区別しかなかったようにも見受けられますが、昭和10年代の国粋主義勃興の中で、右横書きこそが正しい日本語の表記であるという運動が起き1942(昭和17)年には国語審議会は左横書きを本則とするという答申を出すに至ります。これは、閣議決定されませんでしたが、戦争中ということもあって、イギリス、アメリカと一線を画するという意味で、この書き方が多く使われていきます。実際には、日本には横書きというものは、蘭学の影響により右横書きが登場するまでは存在しておりませんので、縦書きではなく、右横書きが正しいとされた根拠は薄弱であるとは思いますが、戦前は右横、戦後は左横という、一般的な区分はここに生まれます。
     もっとも、戦前、大衆を対象とする新聞等は右横書きで見出しを作成していましたが、数値や欧文を入れる必要がある場合、右横書きであると不便です。したがって、そういう必要のある書物では左横書きのほうが普通でありました。そして、英文はともかくとして、数式の必要な砲兵等を抱える陸軍においては、実は左横書きが主流でありました。実際、日本陸軍の火砲の図面を見ておりますと、縦書きが基本ですが、横書きは左から書かれているものが多いように思います。
     このことから、1の南部式自動拳銃や26年式拳銃は縦書きであるがゆえに右横書き、2の14年式拳銃は陸軍の常識として左横書き、3の94年式拳銃においては一般の趨勢に倣って右横書きになったのではないかと想像されます。
     なお、海軍艦艇の艦艇名表記は1898(明31)年に「海軍造修検査規則」において、右横書きに統一されまでは艦首からの横書きが基本でした。しかし、一般船舶においては船首からの横書きが踏襲され、右舷は右横書き、左舷は左横書きが使用されております。もっとも、日本郵船の場合は両舷とも右横書きが使用されておりますが、もう一方の海運界の雄である大阪商船場合は船首からの横書きが使用されており、混在しております。
     陸軍の兵器の刻印については、専門外ということもあって関係法規を存じておりませんが、おおむね上記のような流れではないかと愚考致しております。
     
    hush

  3. 補記
     26年式拳銃は1に入れてしまいましたが、2の誤りです。
     「横書き登場」(2003年岩波新書)によると、幕府が招聘したフランスの軍事顧問団の歩兵操典を訳した中に、早くも左横書きが登場するそうです。それは、フランス軍の信号ラッパをまとめたもので、西洋式の楽譜を使用した関係で、一部に左横書きが使用されています。これは1867(慶応3)年に採用されたもので、陸軍に継承されていきます。したがって、既述のように火砲の図面等をあわせて考えてみると、縦書きでなければ左横書きというのが、陸軍の基本であったと思われ、戦争直前に右横書きが登場するまで継承されたのではないかと思われます。
     
    hush

  4. hush様 詳細な回答と解説感謝いたします。
    私なりに纏めますと。

    日本陸軍においては、洋書翻訳との整合性の必要性から日本陸軍設立当初から左横書きを標準として扱いたかった。

    その為、二本陸軍正式拳銃であった、二十六年式、十四年式は左横書きを採用した。

    南部式自動拳銃は海軍で一部採用されたが基本は民間需要が主で有った為、右横書きを採用した。

    ではありますが、そうしますと九四式が一番判断に苦しむのですが、これは、左横書きを標準とした陸軍においても国粋主義的な論調の高まりの中で、「米英崇拝」であるとして左横書き排除を唱える者も有り、右横書きを採用した。

    と言う事になりますのでしょうか?
    マコト

  5.  鄭重な御礼の言葉を賜り痛み入ります。
     お蔭で南部式自動拳銃というものが海軍に納入されていたということを知りましたが、調べてみますと、「陸式」という刻印は、その海軍に納入された拳銃に名づけられたものであるようです。だとすると、民生用というより海軍のやり方で刻印されたと考えるべきです。そして、明治時代の海軍は右横書きでありますので、この刻印は海軍式となります。ただ、これは右横書きというよりは、2で申しましたように1行1字の縦書きであろうと思っています。
     当時の陸軍の刻印がどの書き方であったのかは分かりませんが、38式歩兵銃に見られるように縦書きであったと思っております。そして、それが横書きになった理由は分かりませんが、その場合、左横書きになったかというと、おそらくは逆だと思います。というのは、大正時代初期まで、陸軍の火砲の図面は右横書きだからです。
     光人社NF文庫から「日本陸軍の火砲」というシリーズが出ていますが、うち、架蔵している部分で確認したところ、1915(大正4)年までに制式になったものは右横書き、1918(大正7)年以降のものは左横書きになっています。したがって、これが製図を行った者の固有の癖でなければ、その間のどこかで右から左に書き方が変更になったものと思われます。このシリーズの他の本を持っておれば、もう少し期間を限定できるものと思われます。
     しかし、そうなると26年式拳銃の刻印が左横書きである理由が分からなくなります。26年とは、明治26年のことで、図面は右横書きの時代だからです。実際、1887(明治24)年採用の15cm臼砲の図面は右横書きであり、砲尾部には「大阪砲兵工廠」のように右横書きで刻印されています。したがって、この26年式の刻印が左横書きである理由については、この時代、各種様式がそこまで統一されていなかったからとでもするしかないと思っております。
     何だか徹底しない結論になってしまいましたが、御許し戴ければ幸いです。
     
    hush

  6. 帝国陸軍その他の拳銃刻印表示について記述します。

    十年式信号拳銃・・・「十年式」左横書。
    俗称一式拳銃(浜田式)・・・制式ではないが 製造メーカー名、口径 等 左横書。
    二式拳銃(浜田式)・・・「二式」左横書。
    南部式小型(ベビーナンブ)・・・「式部南」右横書。

    これらの事実より言える事は、ほとんどの拳銃に於いて戦前陸軍が推奨していた様に左横書きの表示です。
    逆に右横書きの拳銃の共通点は、南部中将閣下が開発に係わった銃で有る事です。
    南部式は大型も小型も陸軍の制式では有りません。民間製造品の買い上げと言えます。
    民間慣習の右横書きで表示製作されていた市販品を購入して、軍がとやかく言えるものではありません。
    94式拳銃も中央興業他、そのままの流れで製作したものと思います。
    (退役したとはいえ南部閣下に向かって、陸軍制式採用に際し横書きの向きを改めます。と進言できる者が居たでしょうか。


    以上 最後は推測ではありますが、南部閣下はそれくらい当時の陸軍内で銃砲に関して神の存在同然だったと聞き及んでいます。

    軌跡の発動機?誉

  7. >6. 誤記訂正。 誤:中央興業他、 正:中央工業他

    蛇足ながら・・・
    今昔、兵器の仕様書は一度制式決定されると余程のことが無い限り訂正されません。
    軽微な間違ならそのまま放置され、間違いのまま永く製造され続けます。
    (訂正は誤りを認めることになり、元の仕様書承認者の責任問題になるから見て見ぬふりが現実です。)

    〜?誉

  8. hush様 軌跡の発動機?誉様 御回答有難うございます。

    十四年拳銃と九四式拳銃の陸軍省検閲済み取扱説明書を眺めますと両方とも右横書きでした。
    ですが、銃の刻印は十四年式が左横書きで、九四式は右横書き。

    とすると、誉様に御教示頂きました、軍に正式採用された十四年式と九四式の違いは、南部麒次郎が“設計に深く”関わったか否か、は確かにそうなので、この辺が表記の違いにつながったのかな?と思えてまいりました。

    私なりにもう少し調べてみようかと思います。
    皆さま有難うございました。
    マコト


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