270 こんばんは。お教え下さい。零戦二二型は、なぜ翼幅を三二型と同じ11mではなく、二一型と同じ12mに伸ばし翼端折りたたみを復活させたのでしょうか?

二二型は、三二型の航続距離問題を応急的に解消するために翼内に燃料タンクを増設した機体と理解しております。三二型で切り落とされていた折りたたみ部分に燃料タンクを増設したとは思えないですし、高速性の追求と横転性能を上げるために三二型で短くした翼を再び長くし、工作製も悪くしている理由の想像がつきません。その後に五二型では翼形を変えて再び11mとしている訳ですから、何か三二型の翼端切り落としの翼形に欠陥でもあったのでしょうか?

ITY[

  1. 翼幅延長が航続力延長に直接的につながるからです。


  2.  残された史料から判断する限り重量増加への応急的対応と考えて良いと思います。
     三二型の主翼端形状は離着陸時に悪影響があったという話もあることはあるんですが、もしあるとしたら重要な事項であるはずなのに二一型との比較を行った報告書には触れられていません。あったとしても欠陥という程の問題ではなかったのでしょう。

     また二一型主翼と三二型主翼の工作の難易ですが、三二型の主翼端は二一型とほぼ同じ構造が残されているようで、公式に言われている工作簡易化の効果は五二型の丸型翼端ほどではなかったのではないかと考えられます。

     そして昭和17年秋は前年秋に突貫工事で行われた下川事故対策の効果が確認されていた時期でもあり、新たな主翼形状を設計するよりも、横転性能向上策を下川機に実施されていたバランスタブ追加に戻す(三二型は下川事故対策前の主翼で審査されていた)ことが要求にかなって手早く、自然だったのでしょう。ほぼ平行して下川事故の原因と疑われていたバランスタブ復活の指示も出ています。
     このあたりが五二型を二号零戦問題(航続力問題)の「根本対策」と呼んだ理由でしょう。

     航続力対策で重量の増加が顕著だったので、翼面荷重を考慮して当時、すでに実績のあった二一型の改善型主翼を採用して様子をみたというのが海軍の態度で、設計側の堀越二郎氏がそれを発案したとも言われますし、少なくとも支持した、というのが実情なのだろうと思います。


    BUN

  3.  翼幅延長が航続力向上に繋がるということも理論としてはあるのでしょうけれども、「応急対策」と呼ばれた二二型への改修が進められている一方で、後を追うようにして「根本対策」である五二型主翼の設計が進められ、翌年春には試作機が完成しています。
     ということは丸型翼端を持ち、横転性能向上と工作簡易化を両立させた主翼製作の方針は二二型への改造作業と前後して出ていなければ具合が悪いことになります。
    BUN

  4. >3 多分、おっしゃっていることは同じだと思います。

    二二型は翼面積をいったん増加させることで翼面過重を小さくしようとし、
    五二型は機体を軽量化することで翼面過重を小さくしようとしています。
    (五二型の初期ロットのものは、翼内燃料槽増設にもかかわらず、かなり三二型に近いところまで重量を軽減することに成功しています)
    翼面過重を減らすことは、もちろん他の面への効果も大きいのですが、この場合、航続力の増加をも期待されているのだと思いました。


  5.  そうですね。
     二号零戦問題と時を同じくして現場に復帰した堀越二郎氏は零戦の原設計を支持していた様子ですから12m翼幅への復帰は片さんのおっしゃるような考え方だったと思います。
     ただ海軍航空本部としては11mの新主翼製作を主眼に置いており、増産要求が強まる一方だったこの時期に、工程の減少が望めない改善強化型の12m翼はあくまで早急に採用できる次善の策と考えられていたからこそ二二型が「応急対策」であり、「仮称零戦二二型改」の五二型が「根本対策」なのです。
    BUN

  6. あえて付け加えるとするならば、零戦三二型と二二型をひとくくりにするよりも、三二型と二二型は別物と考え、その二二型と五二型をひとくくりにする方が、機体の内容の実態にはるかに近い感じがします。
    燃料槽を増加した二二型での重量増加は、この型を三二型以前とは違ったものに変えてしまっています。
    そのことに対する根本対策としての重量軽減型=五二型という考え方は、ひじょうによく理解できるところです。


  7. 三二型の主翼端工作の観点で・・・
    三二型生産当初は二一型となんら変わりない主翼から翼端を外した所に、角型整形のカバーを取り付けています。
    カバーを外せばそのまま21型折畳翼端を装着出来る程ですから、応急構造で在ったと言えると思います。
    しかし折畳機構の主桁補強材(鉄)の重量は無視できなかったのか?本設計対応が遅れたのか?判りませんが、時期は不明ですが応急構造ではなく角型構造なりの強度に合わせた翼端として生産されています。(かなりの重量と工数減となる)
    これは工作簡易化の効果とすれば五二型の丸型翼端と比べるとはるかに工数減となる構造です。
    勿論少なくない数が生産されたと思われる?応急構造翼端の三二型は、五二型翼端と比べると、工数と重量面を合わせ比較すればかなりの効果減となると考えています。
    A6M232

  8. 二二型で12mに戻されたのは、手続きをなるべく省いて搭載燃料の増量を図るためなのではないでしょうか。
    二号戦問題に対して、急ぎ積載燃料を増量したいと意図したとき、11m翼のままでは未知の翼面荷重に行ってしまいます。が、12mにすれば、フルの積載状態は未知の領域ではありこそすれ、その他の状態は初期の二号戦試作機3機のデータがそのまま使えます。制式に向けた要確認項目のかなりを省けたんじゃないでしょうか。
    本音では11mのままで問題ないと思っていながら、応急対策として量産機の航続距離延長を速やかに実現するため12m翼に戻し、併行して恒久対策としては11m翼の完成版2号戦の52型を開発したということであれば、その後の取説などで、二二型が完全無視なのも自然なことと思えます。
    ふじい

  9.  実に微妙なところなんですけれども、片さんやA6M232さんのおっしゃるように機体重量と構造の変化を追って眺めて行くと「二二型と三二型は別物」という観点に至るのだと思います。
     けれども「応急対策」と「根本対策」は重量問題の解決を意味している訳ではなく、総合的な性能向上という点での「根本対策」です。
     零戦の改良は計画初期からの高速化と兵装強化、そして就役時から問題視されていた横転性能の改善を軸に進められていて、ほとんどブレがありません。五二丙型の兵装でさえ源を辿れば昭和17年に要望されたものです。
     ですから重量と細部構造を追ってゆくと「ああ、五二型への飛躍は二二型から既に始まっているんだな」という事は納得できるし、まさにその通りなんですが、この辺りは、ふじいさんのおっしゃるような、海軍が兵器としてのA6M3をどう考えていたか、という視点がより重要ではないでしょうか。
     航空本部の比較資料では三二型と二二型は取説と同じくほぼ同一視されていますし、見落としてはならないのは二号零戦問題の解決が段階的に行われている間中、中島での二一型の生産が継続されている点です。これは18年度以降の生産計画が二号零戦問題の影響で三菱は三二型、中島は二一型と決定されていたことが理由ですが、結局のところ、二号零戦問題は昭和18年8月からの五二型生産開始と配備によって実績で確認されるまで実態として「終わっていない」のです。12m翼の復活はその流れの中で見るべき事だと思います。
    BUN

  10. 二号零戦が結果として性能不足、本来の目標を満たすべく五二型としてやり直され、目標性能を満たすための最後の詰めとして推力式排気管が導入された、という道筋は理解しているつもりです。
    なればこそなおさら、速度低下を招く二二型での翼端復活をなぜ行ったか、という問いに対しては、当面の措置としてまず速度よりも航続力の強化を優先したから、ということなのではないかと考えるのですが。


  11. 翼端を原型に戻す、という決議が行われるのは官民合同で行われた8月27日の「仮称零式二号艦上戦闘機実験促進会議」なんです。
    ここでの議論は広範な内容に及んでいて、第一に性能向上、第二に航続力増大問題が討議されています。水噴射の導入やロケット排気管の導入もこの会議で決議されて方向づけられたものです。要はA6M5の開発会議です。

    ここで航続力増大問題について三菱から翼内増槽提案が行われ、空技廠飛行機部からは空戦性能の低下を危ぶむ声が上がっています。主唱者は烈風の計画に大きな影響を与えた周防大尉です。そこで決議事項の項目に翼内増槽の追加に加えて「翼部端を原型に戻す」という文言が追加されます。
    12m翼は航続力増大に益するという観点から導入された訳ではないのです。

    そして五二型の11m丸型翼端の承認図提出要求が出るのは9月4日です。
    これは8月27日の官民合同の会議時に討議されていなければ出せない日付です。この要求の背景は空戦性能の維持が主張されたと同時に、同じように急降下制限速度の向上も強く要望されたことが理由です。17年前半の戦訓が反映されている訳です。二二型は制限速度が二一型と同程度であれば、作戦の要求上、製作しても構わないと決議されて登場した型式なのです。

    という訳で議論の流れの中でも12m翼端の航続力増大効果はまったく上がって来ませんし、その時、既に五二型の仕様は概ね決定されている上に、その新主翼は設計段階にあります。
    残された記録を読む限り、「翼幅延長が航続力延長に直接的につながるから」翼端が元に戻されたという事実を読みとることは難しいようです。
    BUN

  12. 質問者です。

    お礼の書き込みをしようと思いつつも、どんどんレスが伸びていくのを非常に興味深く読ませて頂き、今に至りました。おかげさまで勉強させて頂きました。
    皆様、真剣な回答ありがとうございました。
    ITY


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