279 スカイクロラと言うアニメ映画で、ストールターンと言う技が登場するのですが、第二次世界大戦などの実際の空中戦などで使用されたことがあったのでしょうか?
レインボウ

  1. ストールターン(失速反転)という操縦技法は実在しますが、戦闘機の機動としては攻撃ではなく防御法に属します。というのは、この操縦法は飛行機の速度と高度を著しく犠牲にするものだからです。

    紙飛行機を作ることができれば、45度くらいの角度で軽く投げ上げてみてください。飛行機は次第に速度を失い、頂点で「カックン」という感じに「おじぎ」し、機首を急激に下げる動きをするはずです。これが失速現象で、過大な迎角(≒機首角)により主翼表面の気流が剥離して乱流となり、飛行機を空中に支えていた揚力が失われて落下している現象です。失速反転とはこれを意図的に行い、なおかつ「カックン」の瞬間に方向舵を操作することで機首を左右どちらか望みの方向に振り、極小半径での方向転換を行うものです。

    これは確かに「極小半径」での旋回ができますが、「最短時間」での旋回(=最速の旋回)ではありません。旋回に先だって「速度を殺す(=失速させる)」時間が必要であり、また失速反転した後には「失った速度を回復する」時間が必要です(そして、このプロセスで少なからぬ高度も失います)。速度を失っているあいだ飛行機は空中静止に近い状態にあり、舵はスカスカでほとんど効きません。廻りに敵機がいるならば自ら進んで的になっているようなものでしょう。

    それでもあえてこの技を使うシチュエーションがあるとすれば、既に優勢優速な敵機に追い詰められて背後に迫られつつあり、この一撃を避わさなければ確実に撃墜されてしまう、という窮地から脱する「絶体絶命の逃げ技」ではないでしょうか。

    ちなみにストールターンに似た技を「必殺技」として温存していた、という戦闘機乗りの話は加藤寛一郎著「飛行のはなし」技報堂出版の第六章「ブルーインパルスの変形インメルマン」に紹介されています。接敵直後に急上昇し、最少半径旋回で機首方位を敵機未来位置に向け降下しつつ攻撃に入るという技で、おそらく「スカイ・クロラ」における描写の元ネタになったものかも知れません。ただしこの技においても「失速反転では速度が死にすぎて使えない」とされており、いかに飛行機を失速させずに最短時間旋回させるかの命題と技法が追及されています。

    派手な失速機動で敵機の意表を突いて討ち取るという「スカイ・クロラ」の描写は、娯楽作品ならでわの「わかりやすい「凄腕」の演出法」と理解するにとどめるべきではないかと思います。

    無記名

  2.  インメルマン旋回を失敗したようなものと考えれば、やってみた人は多分居たんじゃないかな。
    SUDO

  3. とても詳しく回答していただきありがとうございます。
    レインボウ

  4. 零式戦闘機が巴戦において、頂点付近でストールターンの操作を行うことを
    「ひねりこみ」と呼んでいました。小半径の旋回で敵機に追尾できます。
    坂井三郎著「大空のサムライ」をご一読ください。
    老兵

  5. >主翼表面の気流が剥離して乱流になり

    そんなことはないと思います。
    そもそもが乱流だと思います。


    じゃま

  6. >5
     #1の文面の主題は気流が剥離することにあるわけですし、いわゆる乱流翼ではない一般的な機体の場合、本来層流であることを前提として設計された翼です。これが気流剥離した結果として発生する乱流は、乱流境界層ではなく、単に層流境界層が乱されただけのことです。
    SUDO

  7. 1.>5.>
    1.で述べられている「乱流」とは、翼が失速して翼表面から気流が剥離している状態です。
    流体力学でいう「剥離流とその後流」のことで、じゃまさんのイメージしている流体力学用語としての「乱流」あるいは「乱流境界層」とは対応しないように思います。
    翼表面の境界層はじゃまさんのおっしゃるとおり「乱流境界層」である場合がほとんんどだと思います。
    1.で例になさっている紙飛行機の場合はレイノルズ数が小さいので境界層は層流であるとはおもいますが。
    6.>
    「層流翼」といっても迎角の小さい巡航状態で翼上面の前半の境界層が層流なだけで翼の後半、下面などは境界層は乱流になることを前提に設計されています。
    有人航空機のようにレイノルズ数がある程度大きい場合、剥離する直前の境界層が「層流境界層」であっても剥離の発生点から下流の境界層は乱流境界層に遷移するでしょう。また、流れが翼面から剥がれたままで、剥離点から下流で境界層が形成(再付着)されない場合は、剥離流はもちろん「乱流」です。





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