473 彗星はどの艦にどのように配備されるはずだった機体なのでしょうか。
日本の航空母艦パーフェクトガイドによると、「敵航空母艦先制攻撃用の高速艦爆として、一部の航空母艦に配備される限定的な機体」とあります。
この、一部の航空母艦に配備される限定的な機体とはどのような意味なのでしょうか。

1.敵空母攻撃部隊用と言われる、蒼龍、飛龍、翔鶴型の艦爆は全機彗星に置き換わる。赤城、加賀の艦爆は九九艦爆のままで更新しない。

2.マリアナ沖海戦の隼鷹のように、蒼龍、飛龍、翔鶴型は九九艦爆と彗星を混載で搭載。
特殊な位置付けっぽい彗星は一部の攻撃隊で遠距離先制攻撃し、その後九九艦爆などで従来通り攻撃。

この二つのいずれかかと考えていますが、どちらの理解でよろしいのでしょうか。

また、彗星は九九艦爆の高性能版と思っていたのですが、何故全艦に対し九九艦爆から彗星に置き換えようとしなかったのでしょうか。
置き換えたくともエンジンなどの問題で、当初から扱いづらい機体と思われていたからでしょうか。
天ヶ崎

  1. 彗星は過荷重状態での滑走距離の問題から小型の艦では運用が難しかったようです
    2の九九艦爆との混載も艦爆の同時発艦機数を増やすために九九艦爆を用いたのではないでしょうか
    gk

  2. どちらもちょっと違います。

    機動部隊という言葉は主力部隊から離れて敵空母撃滅を目的として機動する部隊=機動航空部隊を略した言葉で、元々は大艦巨砲主義時代の用語です。主力部隊から離れて戦うために敵巡洋艦よりも高速であることが求められたのですが、その目的に適う艦は蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴、大鳳しか完成していません。
    これらの機動航空部隊用空母の攻撃用搭載機は敵空母攻撃用の特殊爆撃機だった艦上爆撃機だけで構成される予定でした。蒼龍就役を見込んで作成された昭和12年の搭載標準では目的別の搭載機構成がはっきりと示されています。
    彗星はこれらの空母に搭載される高性能艦爆として計画されたものです。

    その後、年度の演習を繰り返す中で夜間や悪天候時への対応から敵空母攻撃を艦爆のみから艦爆と艦攻の混成部隊で実施することとなり、昭和14年の搭載標準改正によって太平洋戦争時の母艦航空隊の機種構成が基本的に決定します。
    また、低速のために機動航空部隊から外されていた赤城、加賀も空母の集中運用構想が生まれると機動航空部隊に統合されるようになり、昭和12年の搭載標準で極めて明確だった目的別の搭載機種構成が見えにくくなってしまいますが、もともと条約時代の古い計画による特空母や小型改造空母等への艦爆搭載計画は少なく、艦爆を搭載するべき空母が限られていることには変わりがありません。
    彗星といわず艦爆そのものが初期の名称が表すように特殊機だったのです。

    さらに昭和16年になると重防御空母への対応で搭載爆弾の大型化が要求される艦爆は航空魚雷を搭載できるようになり、艦爆、艦攻の統合が始まります。これが実現すれば昼間、晴天の好条件では昭和12年の搭載標準通りの全機を急降下爆撃機で構成する攻撃隊を発進できる訳です。
    彗星は運の悪いことに、こうした機種統合の流れにも取り残されてしまっています。現実の彗星は戦争後半に陸上基地航空隊用の主力爆撃機として予期せぬ大量生産が行われますが、それとのコントラストも含めて限定的という言葉を使っています。



    2は第二航空戦隊が新型艦爆の配備を強く望んだために実現したものです。第一航空戦隊の母艦に九九艦爆が見られるのは不足する機数の埋め合わせとして用いられ、しかも攻撃用としてよりも哨戒用として搭載されたようです。
    BUN

  3. 蛇足ですが…

    >彗星は九九艦爆の高性能版

    という認識は、BUN様の回答の文脈を注意深く読めば判りますが、誤りです。
    元来、機動部隊専用機という運用想定のためか、いろいろな文献に当たると
    『大量装備を前提としないため、空技廠による複雑精緻な設計や製造手法が容認された。(爆弾槽の開閉への電動モーターギアの多用等)』
    と決まって出てきます。
    これに懲りて、次の銀河では型鍛造を多用した量産設計になりますが、型鍛造と言う工法自体が当時の日本には普及しておらず、却って
    戦時設計向けでない、ということで改設計され大混乱したとのこと。

    以上、ご参考までに。
    TOSHI!!

  4. 電動の多用は単にこの時期の技術的な傾向なのだと思いますよ。
    「流行り」といってもよいです。
    大量装備を前提とする十二陸攻や十四試局戦のフラップや脚も電動ならば、VDMも電動です。



  5. 「九九艦爆の高性能版」で大きな間違いはありません。
    彗星だけが特別な機体という訳ではなく、艦爆という機種そのものが機動部隊専用の機種だからです。
    陸上基地航空隊に艦爆装備の基地航空隊が出現するのは九九艦爆の計画後です。九九艦爆もまた新兵器である「特殊爆撃機」なのです。

    日本海軍の艦爆はハインケル設計の九四式軽爆で初めて実用機を得て、その更新用として全金属製単葉の高速艦爆が十試軽爆として計画され、この計画が流れた後に九四式の改造機を九六式として応急的に採用することで蒼龍の搭載機を間に合わせ、さらにハインケルHe118の国産化研究が中止となり、次期高性能艦爆計画がまた遅れてしまう中で、性能的に不満な九六艦爆の更新用として、十一試艦爆が計画されます。
    十一試艦爆は愛知と中島で試作され、審査の末、愛知機が採用されたものが九九艦爆です。
    十一試艦爆は複葉形式でも良いとされ、とにかく堅実な試作が求められた機体で、高速艦爆が完成するまでの繋ぎと位置づけられていました。
    ですから九九艦爆は来るべき十三試艦爆(彗星)の簡易代用機的な機体で、彗星はそれよりも更に高性能な、海軍がずっと欲していた本格的な艦爆ということになります。
    日本の艦爆の開発史はドイツ式の高速機実用化までの右往左往で埋められているようなものですね。
    BUN

  6. 成る程、ありがとうございます。

    「敵航空母艦先制攻撃用の高速艦爆として、一部の高速航空母艦に配備される限定的な機体」
    「各母艦には彗星を搭載する、あるいは将来搭載する予定とした搭載計画類がほとんど見られない」
    「彗星よりその後継機流星の搭載計画が先に表れてしまう」
    ページ数の問題の為か、九九艦爆の項にはそれらが書かれておらず、彗星の項のみ書かれていた為、彗星は従来の艦爆とは一線を画する特殊な機体と解釈してしまいました。
    つまり、艦爆という機種自体が特殊であり彗星だけが特別というわけではない、と言う事なのですね。
    九九艦爆と異なり、発着艦にかなりの制限を受け集団使用できる母艦は限られるから彗星は特殊機、というわけでは無いということですね。

    また同書によると、昭和12年の艦船飛行機搭載標準において赤城は艦爆18機、艦攻48機と書かれています。
    基本の構成は艦攻ですが、昭和12年の段階でも少なからず赤城に艦爆が搭載されているように見受けられます。
    敵空母攻撃用とされていない赤城に特殊機たる艦爆を搭載した理由は何なのでしょうか。

    >「九九艦爆の高性能版」で大きな間違いはありません。
    小さな間違いはありそうなのですね。
    天ヶ崎

  7. 昭和12年にハインケル社から輸入した急降下爆撃機 He118の国産化を試みた海軍だったが、計画は断念され、かわりに13試艦爆の試作を空技廠で行うこととなった。
    昭和15年に完成した試作機は審査の結果急降下爆撃機として使用するには強度不足と判断されたため機体の改修を行うこととした。しかし、当機体が優速だったため機体に無理がかからない艦上偵察機としてとりあえず採用することになったのである。
    昭和17年7月に二式艦上偵察機として採用されているが、これに先立って13試艦爆試作機の爆弾倉にカメラを収めた機体2機が航空母艦「蒼龍」に搭載され、ミッドウェー海戦に参加している。
    艦爆としては昭和18年に艦上爆撃機「彗星」として制式採用された。

    老兵

  8. >敵空母攻撃用とされていない赤城に特殊機たる艦爆を搭載した理由は何なのでしょうか。

    空母を含む主力艦以外の艦艇攻撃が第二の任務として考えられているからです。
    日米間の建艦競争はアメリカ側の産業復興法による軍拡で火が付いていますから、後手に回った日本海軍は洋上航空兵力で常に劣勢を想定しています。
    そのため、第二艦隊の水偵にも爆撃任務を付加したように爆撃機の増勢に重点が置かれています。機動航空部隊といっても現実の兵力としてはこの時点で蒼龍1隻しかないのですから。

    >「九九艦爆の高性能版」で大きな間違いはありません。
    小さな間違いはありそうなのですね。

    ちょっと深読みに過ぎますね。
    5で書いたように、九九艦爆を完成させてからその後継機として彗星を試作したのではない、という事情があるだけです。

    BUN

  9. 一航戦は敵戦艦攻撃が第一の任務だが、敵空母攻撃を想定していないわけでは無いのですね。
    敵空母攻撃なども任務としているが故に艦爆も搭載していた訳ですか。
    つまり、彗星の開発時から一航艦の彗星配備は考えられていた、というよりできるなら九九艦爆より彗星を配備したかった、と言う事ですね。
    今まで「一部の高速航空母艦に配備」に加賀・赤城の事は含まれておらず、流星配備まで九九艦爆で戦い抜く予定だったと思い違いしていました。

    >5で書いたように、九九艦爆を完成させてからその後継機として彗星を試作したのではない、という事情があるだけです。
    成る程、そういう意味でしたか。
    九九艦爆は昭和14年採用で、彗星は昭和13年試作ですから、確かに完成させてから試作したわけではありませんね。
    天ヶ崎

  10. ドイツに設計を依頼する十試軽爆=1935年のドイツ再軍備で拒否される

    その代替としてHe118とダイムラーベンツエンジンの購入=1935年/昭和10年末(この時に機体の付属品として強引にDB600を入手したことが日独間のDB600系発動機をめぐる駆け引きの始まり。)

    He118の機体研究の末、採用中止。

    という流れを経ての十三試艦爆試作発注で、むしろ十一試艦爆よりも構想が古いということです。
    ドイツ設計の新艦爆、間に合せで購入したHe118、どうもこちらの方が本当の買い物だったのでは?と疑いたくなるDB600実機の購入、そしてHe118の面影を強く残した十三試艦爆は一つの流れの中にある、ということです。

    そして海軍としては九九式は一一型のみで中止する予定でしたが、昭和16年末に十三試艦爆の試作遅延のため、さらに中継ぎの機体として二二型の生産が決まります。九九式を一一型で止めて十三試に移行するという計画からも、十三試艦爆が特別扱いされていないことがわかります。

    BUN

  11. 詳しい回答ありがとうございます。

    >>5で仰っていたように、彗星はドイツ式高速艦爆導入の一連の流れであり、構想自体は九九艦爆より前に遡れるという事ですね。

    艦爆という機種自体が特殊であり、彗星だけ特別扱いというわけじゃない
    むしろ彗星のようなドイツ式高速艦爆こそ日本海軍の欲していた艦爆であり、九九艦爆や九六艦爆は妥協の産物で日本海軍の本来欲しかった艦爆でない
    という事が分かりすっきりしました。
    天ヶ崎


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