731 キ84の開発状況について質問させてください。

キ84はこの時期に開発された戦闘機の中では試作指示から正式採用までほぼ2年と異常なスピードであったように感じるのですが、それ以外にも

@この時期の誉搭載機が軒並み抱えていたエンジンの初期不良があった

A審査の際に記録した速度、上昇性能共に要求性能をかなり下回る数字だった

という問題がありながらなぜ正式採用に至ったのか、が気になるのですが、単に紫電一一型と同様に問題点を承知の上で戦力化を急いだという事でしょうか。


codfish

  1. 補足です。

    この話題はこれまで何度も俎上にあがったと承知の上で質問させていただいたのですが、個人的な感覚ですが、機体開発に関して海軍は要求性能を満足させているかどうかに関して厳しく、陸軍はそうではないような印象を受けるからです。じっさいのところはどうだったのでしょうか。
    codfish

  2. キ84試作機は「初期不良」どころか、発動機そのものが違います。ハ45特(すなわち誉一一型)で624km/hを出しているので、要求性能を下回るどころか、誉二一型相当のハ45の搭載で予定の性能はほぼ達成できるという見通しを示す成績でした。
    BUN

  3. BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    審査された試作機にはハ45特が搭載されていたのですね。そうすると審査段階では発動機の初期不良については問題とされなかったという解釈でよろしいのでしょうか。

    ただ、私が疑問に思う部分は

    >>誉二一型相当のハ45の搭載で予定の性能はほぼ達成できるという見通し

    という所で、前身のキ44開発の際もそのような経過を辿ったように思うのですが、一方で海軍の十四試局戦は同じ理由で逆に正式採用とはならず、開発続行となり、発動機の換装による性能向上が見込めるという理由からさらに要求性能が高くなってしまいました。キ84の審査が実施されていた頃はキ43IIやキ61の部隊展開がようやく進んだ頃でもあり、そんなに焦りを覚える時期でもなかったように思うのですが、こうした両者の採用不採用の判断基準に何か違いがあったのかなと思ったのです。
    codfish

  4. 海軍が内令兵で兵器採用を通達するやり方と陸軍の制式制定は同じような制度ですけれども、大きく異なる部分があり、多くの海軍機は部隊配備後に制式となるか、あるいは紫電改や彩雲のように終戦まで実験機扱いで終わることもあります。まず両者は別の制度だという点が大切です。

    BUN

  5. >>BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    海軍と陸軍とでは正式採用の制度そのものは似ていてもその内容は似て非なるものという事でしょうか。確かに雷電の正式採用の時期も未だに判然としないようですし、いろいろ考え方は違うようですね。

    たまたま戦史叢書の「陸軍航空兵器の開発・生産・補給」を読んでいて、開戦後の陸軍航空が矢継ぎ早に航空機を正式化、大量生産化に傾注する様子が見え、その積極的な姿勢に驚かされたので質問させていただきました。

    それにしてもキ84があれだけの短期間の間に初飛行にこぎ着けたのは機体設計であまり無理をしなかったからだけなのでしょうか。キ43、キ44も初飛行までほぼ一年という短期間ですが、中島は他メーカーに比べて戦闘機の開発に習熟していたという事でしょうか。

    codfish

  6. 制式と正式は意味が異なります。制式とは兵器としての規格を定めて構造要領などを整えて同じ物を追加調達できるようにすることです。ですから「正式でない制式」というものもあり、陸軍ではこれを仮制式、準制式と呼びます。
    国産の第一線機は審査を終えると仮制式制定され、この時点でキ番号から年式冠称の名称が使われるようになります。その後に制式制定されるという流れで、練習機、輸入機などは準制式として制定されます。

    開戦後に仮制式以上に進んだ陸軍戦闘機は二式戦闘機、二式複座戦闘機、三式戦闘機、四式戦闘機の4機種で、海軍の場合は内令兵で通達された制式採用は二式水上戦闘機(17年7月)、月光(18年8月)、雷電(19年10月)、紫電(19年10月)で、やはり4機種です。両者に量産されて制式採用と同等の扱いだったキ一〇〇と紫電改を加えても機種数は変わりません。
    BUN

  7. >>BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    おっしゃるように一つずつ数えてみたら確かに両者4機種ずつですね。キ43の採用時期が開戦直前だったのと陸軍の戦闘機が短い期間に立て続けに採用に至ったためにそんな印象を持ってしまったようです。

    ちょっと質問の趣旨とは離れますが、雷電(J2M2)の正式採用時期は昭和19年10月という解釈でいいのでしょうか。
    codfish

  8. 「正式」ではなく「制式」です。本格的に採用したから「正式」なのではなく、軍が兵器として規格を定めたから「制式」なのです。「制式」という言葉は「正しいやり方で」という意味ではなく「規格」と同じ意味で使われます。

    雷電は一一型、二一型、三一型とも19年10月です。量産開始から約1年もの実験機扱いですが、零戦二二甲型なども同じですから時期を見計らって他の機種と一緒に済ませているということです。

    また、陸軍機は制式の内容を示す構造要領を改正するだけで新しい型式を制式に加えることができますが、海軍機の場合は新しい型式ごとに内令兵で兵器に採用する旨とその名称が通達されます。
    BUN

  9. >3
    >そうすると審査段階では発動機の初期不良については問題とされなかったという解釈でよろしいのでしょうか。

    昭和19年3月末の陸軍軍需審議会では、キ八十四の制式制定が議題の一つとなっていますが、ここでキ八十四は主として発動機関係の事情を理由に一旦制式化を保留されています。
    ここでの大きな理由としては、発動機のメタノール噴射がうまくいっておらずブーストが250ミリまでしか引けなくなっていることが挙げられていますが、対策としてメタノール噴射の様式を改善することで350ミリまで可能となる見込みであることも述べられています。このすぐあと4月にはハ四十五のメタノール噴射が中央噴射から翼車噴射に切替えられています。


  10. >>BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    すみません、「制式」と書いたつもりで「正式」と書いていました。それで雷電の採用時期ですが、これは内令兵の通達という形をとった為「お役所仕事」的な形になってしまったのでしょうか。一年近く実験機扱いで部隊運用するのは何か不都合がありそうなものですが・・・

    >>片さま

    お返事ありがとうございます。

    過去ログでも片さまのこの件の回答がありましたが、キ84の審査時に記録された631kmという数字はブースト250ミリで記録されたものだそうですが、噴射装置の問題が解決された結果、ブースト350ミリでの運転が可能となり、その結果当初キ84が目指していた性能が発揮出来る見込みとなったため制式化した、という事でしょうか。
    codfish

  11. 兵器に採用される、されない、という問題は海軍では実質的に意味をなさなくなっています。他の兵器も同様です。三式弾などは好例でしょう。

    またキ84に関してはエンジンが違うと言う点が大切です。
    相当後の機体までハ45特である可能性が高い、と判断しています。
    そしてハ45の翼車噴射は海軍では誉二一型で採用され、昭和19年初頭には誉一一型が誉一二型として二一型同様に改められ全型式共通となっています。ハ四五が遅れて採用された訳ではありません。
    BUN

  12. >>BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    海軍の制式採用時期は昔から今一つ腑に落ちない事が多かったのですが、そうした形式にあまりとらわれる事がなかったという事でしょうか。

    ちょっと整理したいのですが、

    キ84試作型に搭載されていたのはハ45特で、試作四号機の631kmというのはハ45-11相当のブースト250ミリでの運転成績、

    その後審議会で問題になったのは生産型のハ45-21の方で、この発動機のブースト圧が噴射装置の問題で予定していたブースト350ミリが引き出せなかったので噴射の方式を変更した、

    しかしハ45-21はその他にも冷却フィンの問題等ありそれが解決するまで当面キ84にはハ45特(又はハ45-11)が搭載された、

    という事でしょうか。
    codfish

  13. 昭和18年4月頃の海軍型のNK9H(ハ45/誉二一型)は試1号機の耐久試験中という状態で、陸軍のキ84にハ45が回せる状態にはありません。また7月には陸軍向けのハ45試7号機(耐久試験機)の主蓮接桿破損対策、続いて9月末にも同機の破損対策をしており、耐久運転が続けられて本来のハ45はキ84の性能計測に間に合っていないのです。昭和19年になってもこのような状態が続いています。数が合いませんのでハ45特の搭載は相当後の号機まで続いているはずです。

    また水噴射装置の翼車噴射への改良はハ45/誉二一型で既に行われているもので、昭和19年初頭には量産中の誉一一型もそれに倣って変更され誉一二型となっています。海軍で解決していのでこれはさほど大きな問題ではないのです。

    ただ、量産を開始したばかりのハ45は新鋭発動機の例に漏れず問題続出でしたから最終的に運転制限を課してハ45特並みに制限する、という条件付きで進むことになります。運転制限の解除は低圧噴射装置の導入時に行われる予定でした。

    冷却フィンについては既に前年の実験で植込みフィンの性能が金型鋳造に劣ることが確認されていますので、技術面では解決済みでした。
    BUN

  14. >>BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    なるほど、陸軍向けのハ45と海軍向けの誉二一型とでは少し導入にあたっての経緯が違うのですね。

    細かい話ですが、キ84の生産実績を見ると昭和18年11月は21機、そこから昭和19年の2月まで生産0、3月は23機、4月は98機、5月は128機と徐々に増加していいますが、ひょっとして昭和18年中に生産されたキ84がハ45特搭載機という事なのでしょうか。あるいはそれ以降の生産機にもハ45特が搭載されていたならば、キ84の初期生産機には運転制限はなされていなかったという事でしょうか。
    codfish

  15. 運転制限はハ45/誉二一型に対してのものです。ハ45特を搭載していないからこそ運転制限が課せられているのです。

    BUN

  16. >>BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    どの時点からキ84には45-21が搭載されたのかも気になるところですが、仮にハ45特搭載のキ84が昭和19年のフィリピン方面に投入されたとしても、そこで起きた問題はハ45特特有の問題というよりは、単純にキ61がニューギニア方面へ展開した当初と同じような事態が起きていただけ、という事でしょうか。
    codfish

  17. どんな発動機でも量産開始から暫くの間はトラブル続出になります。マスタングの性能を支えたマーリン60も問題児ならBf109GのDB605もまた問題児でした。
    零戦の栄も、九六戦の寿もまた同じです。

    片さんが紹介している陸軍の軍需審議会がキ84の仮制式制定を延ばそうとした件で採り上げられた水噴射システムの改良で350oまで引ける見通しとは、ハ45特並みに制限(ブースト250mm 2900回転)されたハ45を水噴射の改良で何とかできるのではないか、という期待を示しています。
    ですから19年3月に作成されたキ84の取扱説明書には運転制限が明記され、現状はこのようになっている、と説明しているのです。
    けれどもこの取説作成の段階で、既に量産に入ることが決まっていることその内容からわかります。
    運転制限下で当時の陸軍機としては十分に高速だったことがキ84の将来を決定していると言えます。
    制式制定しようがしまいが、19年3月には膨大な数の発注内示が行われているのです。
    BUN

  18. >>BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    丁寧な解説ありがとうございます。よくわかりました。それにしても大戦後半の試作機によくある要求性能不足といった状況は、誉一一型ではなく誉二一型の定格出力をベースに開発していたから、と考えれば、この辺りの判断は非常に微妙なものですね。

    あと一つだけ、キ84乙型試作機の660qという速度記録はハ45特ではなく、水噴射装置付きのハ45で記録されたものなのでしょうか。
    codfish

  19. そうだと思います。取説の指定燃料は離昇がオクタン価100、公称が95または92です。分溜性状の良好な燃料を得られれば運転制限の根本的な要因だった混合気分配の不均等が収まりますから本来の性能が発揮できても不思議ではありません。現実に米軍鹵獲機で同じ事が起きています。
    BUN

  20. >>BUNさま

    お返事ありがとうございます。

    やはりそうでしたか。そうすると、乙型試作機の性能がキ84本来の物であって、運転制限のために結果として後に生産されたハ45搭載のキ84もハ45特搭載のキ84試作型と同程度の状況でかなりの期間運用せざるを得なかったという事なのですね。私はハ45-11もハ45-21も両者とも運転制限がなされていたと思っていたのでいろいろ理解ができました。ありがとうございます。

    それにしても三菱に比べて中島の戦闘機開発スケジュールの短さには驚きです。戦闘機以外の開発はそこまで早くないようですから、これは得手不得手がメーカーによってあるという事でしょうか。


    codfish


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