837 ハ43は、十分に振動対策がとられていたのでしょうか?
どうも、そうでもない雰囲気なのですが。
よろしくお願いいたします。
100万

  1. そのような「雰囲気」はどのようなことから感じられたのでしょうか?



  2. 「海軍の強い要望があったので」艦上戦闘機烈風用に開発されつつあったA20の主連桿配置を前後隣接気筒間とする台上試験が実施され云々、と雷電の振動対策について書いた文章にありましたので、十分な対策がメーカーの開発時点では行われていないように見えたのです。
    理論的には主連桿配置を前後隣接気筒間とした方が振動が少なくなるようで、だとするならば積極的に振動対策を進めていたのならばこういう後ろ向きの形容詞がつくことはなく、「海軍の助言で」くらいになると思うのです。雷電で、あれほど振動対策に振り回されたのですから、新型の戦闘機用高出力エンジン開発に振動対策を盛り込むのが自然な流れだと思っていましたので、そうでもないのかなと思ったのです。
    つまり、開発当初から、振動対策を十分には考慮していなかったのではという疑いを抱いたというわけです。無論、メーカー側が不必要だと判断していたなら、別に重大な問題ではないのですが。


    100万

  3.  なんか誤解があると思います。
     主連棹配置は隣り合わせに「しない」ほうが振動は小さいのです。あたりまえの理屈ですね。自転車で左右のクランクが対象ではなくほぼおなじ位置にあると想像してください。大変であろうというぐらいは理解できるかと思います。
     雷電等で主連棹位置を変更したのは、エンジン単体の振動が増しても、出力変動(トルク変動)がプロペラ等と共鳴しない周波数にしようとしたというものです。
     また出力変動とプロペラ剛性と機体の振動の関連性は雷電の事例で明らかなように中々原因が分からなかったものですし、多くのエンジンで取り入れてないように対策したくても難しいものです。
     開発着手時には知らなかったことであり、また対策すると別のトラブルの原因にもなる可能性のある処置を積極的に取り入れてないというのは果たして問題なのでしょうか?
    SUDO

  4. SUDO様、ご回答有難うございます。
    私が最近読んだ文章では「主連桿配置を前後隣接気筒間とした方が振動が少なくなる」とあり、それの元の論文はどうやら日本でも紹介されていたようです。また、様々な対策が試みられ、解析も行われているのに、積極的な対応がなされなかったのだとしたら、不思議に思ったわけです。
    2倍速バランサーが、クランクと逆回転なのか順回転なのか、双方の記述を見て混乱もしています。もし、順回転だったとしたら、日本の技術者は何か勘違いしていたことになりますし。エンジン関係の技術書をきちんと読まずにいることが、混乱の原因になっているのですが、ともかくまるで逆の記述があったりして、悩んでいるところです。
    100万

  5. 複列星型発動機における主連桿配置が発動機のトルク変動に重大な影響を与えるという事実を最初に指摘したのはBentley, G.,P., and Taylor, E.,S., Gas Pressure Torque of Radial Engines. Journal of the Aeronautical Sciences. Vol.6, No.1, Nov., 1938(Received Aug. 26, 1938). という論文だそうです。その論文が、中島和雄・金藤正治著『星型航空発動機の動力学』(龍吟社、1942年)として紹介されているとのことです。昭和17年。
    この論文の要点は、複列星型発動機においては前後バンクの主連桿配置=主気筒間角度を180°配置とすることが慣行とされていたが、この配置が実は大きな1次トルク変動を招く点において極めて不利な配置であることが解明されたということだそうです。重要なのは、しっかりした理論的根拠無しになされて来た前後主連桿の180°配置が、最大の、かつ、相対的に見る限り極めて大きいと表現出来るような1次トルク変動を惹起していること、前後バンクの隣接気筒同士をそれぞれの主気筒とし、ここに主連桿を作用させる配置はこの点に関して最も有利な配置であること、そこから乖離して180°に近付くほどに1次トルク変動の程度が増して行くこと、が解明された。
    雷電の振動対策をしていた人は、 BentleyとTaylorの論文について知っていて、言及しています。不思議なのは、ダイナミックダンパーなど振動低減に有効な策を十分に知っていながら、不要としていることです。無論、火星や金星の時点で不要と判断したことは、それなりの理由も利点もあったのでしょう。クランク周りを複雑にしない、とか。しかし、新規の、より高回転高出力の、それも戦闘機用エンジンの開発ということになれば、振動対策を積極的に行った方が、遠回りのようで結局は近道ではないか?ましてや、火星で振動対策に四苦八苦しているのだから。
    ハ45は、ダイナミックダンパーを組み込み、最低限の振動対策を行っていたといいます。それでも、振動は問題だったといいます。だとするなら、ハ43がそれほど積極的に振動対策を行っていなかったとすれば、仮に予定通りの出力が発揮されたとしても、戦闘機用エンジンとしては使えないことになった可能性もあるのではないでしょうか?
    三菱のエンジンについては、坂上茂樹『三菱航空発動機技術史―― ルノーから三連星まで ――』が、最近読んだ文章です。大阪市立大学の機関リポジトリで公開されています。

    100万

  6.  なんていえばいいかな・・・トルク変動とエンジンの振動は「別」なんですよ。そして振動は減るんじゃなくて別の形別の周波数になるだけなんです。
     超単純に言っちゃえば、直列2気筒と水平対向2気筒の差なんです。当然発生する振動も異なるわけで対策も異なります。
     そしてダイナミックダンパーをエンジン単体で考えるなんてのは基本的にありえません。エンジン単体で使う特殊な条件ならともかく実用機なんですから不要と判断するのは必然です。これはインストールとセットなんです。機体とかプロペラがダイナミックダンパーとして作用するように手配するのです。
     雷電のプロペラ振動はダイナミックダンパーが逆方向に作用した例と言っても良いでしょう。

     つまりはエンジンに対して基本的な部分で誤解してませんか?
    SUDO

  7. SUDO様、有難うございます。
    えーと、そうなりますと、R-2800のカット図面などに書いてある「トーショナル・ヴァイブレーション・ダンパー」や「セカンダリー・カウンターバランス」などは、本来不必要ということになるのでしょうか・・・?
    おそらく、私がエンジン、就中星形エンジンについての知識や、全般的な工学的素養が乏しいための誤解、及び、きちんと疑問を書ききれないことが問題なのでしょう。
    そういうあやふやな私が、坂上氏の『三菱航空発動機技術史』という論文(特に第3部)を読んでの印象ですから、怪しいのですけれど。
    雷電の事例は、特異な事例ではなく、無論増幅されて見えやすい事例となったのは事実ですが、星形エンジンという形式に由来する振動問題は、すべてのエンジンに内包されていたように思われます。星形エンジンが複列化し、より高回転高出力化していくと、曲げ、捩り、前後など複雑な力がより大きく働き、より振動を惹起することになります。それら問題点の把握、解析、対策は、内外を問わず当時研究されていた。ですから、三菱の関係者もこれらについて知っていた。彼等が、金星や火星の段階でそういった振動低減策が不必要と判断したのは、色々検討した結果でしょう。しかし、雷電が特異な事例であるにしても、エンジンの能力を十分に発揮させられる解決策は無かった。本当なら、エンジン側で振動低減を行わなければ、どうにもならなかったのではないのでしょうか?
    前記論文によれば、星形エンジンの振動低減策は、ダンパーやバランサーの追加と、トルク変動低減のための主連桿配置を前後隣接気筒間配置にする、ということになるのでしょうが、それらを既存のエンジンに採用するのは難しい。
    金星や火星のクランク周辺を変更することは不可能でしょう。別のエンジンを作ることに等しいでしょうから。それならば、新規開発中のエンジンから、振動対策を積極的に行ったのかどうか?特に、ハ43は重要なエンジンであるはずなので、どうなのかな、と思ったのでした。
    私が、何か、どこかずれていますね。
    100万

  8. ポイントはいくつかあるでしょうが、A20の設計が雷電の振動問題より「前」という前後関係は押さえておいた方がよいのではないでしょうか。
    十四試局戦の初号機機体と、A20初号発動機の「完成時期」はほぼ同じ、と思うのですが。


  9. >7
     はい、R-2800でもそうですが、このテのものは本来は不要です。
     良い例はマーリンでしょう、徹底的にこの手の対策装備を端折ったエンジンです。操縦者からは大不評でオンボログルマみたいだと酷評されてますがw
     自動車やバイクの競争仕様なんかでも同様ですね。振動を抑える対策はエンジンを重くし、コストを上げ、出力を低下させ、場合によっては故障の原因にもなるんです。
     我慢できる範囲まで我慢してもらう。どこまで我慢できるかは作って使ってみないとわからない。耐え難いようだったらなにか工夫して処置してみよう、そういうものなのです。これが基本原則です。

     そして主連棹背中合わせは、やろうと思ったら簡単にできるけど、耐えられないエンジンには絶対に耐えられないし、設計で対処できるものではありません。ていうか大戦前半の日本では逆立ちしたって絶対に対処できません。なぜなら主軸への荷重がほぼ倍増するので、軸受けと潤滑油が耐えられないのです。回転数やブースト圧を落とせば対応できますが、それじゃ本末転倒ですしね。
     この主連棹背中合わせは耐圧荷重の飛躍的増加を達成した新型ケルメットという新素材が出てきて初めて可能になる手段です。そしてこの新しい軸行け素材さえあれば、ものの半日で対応できます。ばらして組み直すだけですから。つまり努力とか先見性とかの問題ではないんです。
     新型軸受け素材が得られるようになるから、それ前提で作れと海軍が言ってきたのでそうした。それだけのことです。

     このエンジンというものの基本的な立ち位置と、主連棹背中合わせという処置を可能とする背景を理解した上で考えてみてはいかがですか?
    SUDO

  10. 片様、SUDO様、有難うございます。
    時系列を押さえていませんでした。
    エンジンの新規開発には、数年という時間が必要なわけで、したがって、ハ43に火星の教訓を盛り込むのは難しいところがありますね。しかし、それでも、三菱の開発姿勢は、振動対策に後ろ向きの様に見えてなりません。主連桿配置を前後隣接気筒間配置にする実験も、海軍の要請でしょうがないといった感じですし。二倍速バランサーも図面まで出来ていたといいますが、何故自分の方から積極的に動けなかったのか?
    ダンパーやバランサー類が本来不必要ということ、納得です(あまり適当ではありませんが、1986年頃のF-1用ホンダエンジンはルノーに比して凄い振動があったという事例から)。
    日本の(特に三菱の)エンジン開発者にとっては、振動対策を行うことはエンジン製造上に複雑化をもたらすので、振動対策は忌避されたということなのでしょう。
    それが避けて通れないと考えて、複雑化も厭わず対策を講じたのが米国で、避けて通れると踏んだのが日本(特に三菱)だったのでしょう。振動対策無しでうまくいっていれば、よくぞ見切ったということになっていたのでしょうけれど。実際は、無論幾つもの要素が重なったことではありますが、照準も出来ないくらいの振動に悩まされることになった。振動対策を行った米国のエンジンメーカーは、それはそれで大変な苦労をしたようですが。
    確かに、努力や何かとは違うところの問題でしょうが、製品開発に対する姿勢の違いが出ているのかもしれません。高出力エンジン、特に単発戦闘機に求められる要素について、軽量コンパクト高出力以外の要素は、日本ではあまり考慮されなかったという面もあるのでしょう。
    三菱のエンジンは、大きく重く、だけど壊れない=頑丈、なのかと思っていたのですが、坂上論文を読みますと、(例えば金星は栄に比して)クランク系は弱かったようです。主連桿配置を前後隣接気筒間配置にしたら、とても耐えられない。だから、振動対策に後ろ向きだったということなのかもしれません。ハ45は、意外といっては何ですが、クランク系は頑丈で、主連桿配置を前後隣接気筒間配置にしても耐えられたそうです。実用化には、時間切れだったようですが。三菱系は頑丈で、中島系は繊細で弱いとは、単純にはいえないようですね。
    100万

  11. >9
    このテのものは本来は不要です。

    そう言い切ってしまうのはどうかという気がするのですが。
    たとえば、V12エンジンは、エンジン単体で完全にバランスがとれていますが、実際には、たいていバランサーを付ける。
    そうしないと、潤滑がキツくなるからです。
    いろいろな面があると思います。
    じゃま

  12. >10
     R-2800は特にこれといった対策を行わずに作った結果、あとから振動対策で主連棹の位置を変えたというエンジンです。火星でやったのと似たようなことをやっちゃったという実例です。アメリカには銀ケルメットがあったので適用できましたが・・・
     またフランスのイスパノ12Yも出力向上した後期型で振動共振がどうしても避けられずカウンターを設けました。マーリンがバランサーを設けず操縦士に我慢を敷いたのはすでに述べたとおりです。
     別に日本だけ特別なわけではありません。これが当時の世界のエンジンの常識です。
     また誉だから主連棹の位置を変えて耐えられたのではなく、あの時期に耐えられる銀ケルメットの製造の見通しが立っただけです。これはクランクの強度の問題ではなく、クランク軸受け素材の耐荷重の問題です。同様の素材さえ適用すれば火星でも金星でも問題ありませんし、頑丈なエンジンを作っても当時では銀ケルメットを用いない限り主連棹背中合わせは成立の余地はまずありません。
     というか銀ケルメットが得られるだろうという希望的観測で海軍は主連棹背中合わせを押し込んだのだということです。
    SUDO

  13. BMW801は、主連桿配置が前後隣接気筒間配置だそうです。振動対策は、ダイナミックダンパーだけだそうですが、クランク系の剛性が高いので大丈夫?
    えーと、クランクだけでなく、クランクピンや軸受けも含めて、クランク系が三菱系は弱かったようです?軸受け部分の材質だけの問題でないような感じでしたので、全体の強度不足かな、と思っていました。
    100万

  14. 当時のエンジンでクランク周りが破損するのは、クランクやクランクピンの軸受がいかれるからってのが大体の原因です。
    そしてコレは悲しいことに細くしたほうが周速の関係で潤滑が途切れにくいんです。でも細くすると強度が弱くて潤滑いかれた時に破損しやすい。
    このギリギリのところでどっちに重点を置くかは思想とその時点で得られる軸受け素材や潤滑油の性能の問題であって強度軽視とかじゃないんです
    当たり前ですが三菱だって実用できるエンジンを作ろうとしてるんですから、その時点で手のうちにある知見や素材を前提として大丈夫なように作ります。
    そして、試験条件は軍が指定しますから、この程度で大丈夫という見切りは軍の責任です。どこまで行っても三菱はどうだったとかなんて持ってくのは無理な話です

    SUDO


Back