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航空機の翼とレイノルズ数について質問させてください。 レイノルズ数=(飛行速度×翼弦)÷動粘性係数ですから、 飛行速度と動粘性係数を一定とした場合、レイノルズ数は翼弦長に比例して増減するという事ですよね。 ここで次の画像を見てください。航空機の翼(翼平面型)が2つ出てくるはずです。 http://gazo.shitao.info/r/i/20150629233642_000.jpg 見ての通り、上の翼は直線翼で下の翼は前進翼です。 翼面積はどちらも同じです。また、線AとA'、BとB'、CとC'は、それぞれ同じ長さです。 後退翼や前進翼の場合、実際の空気の流れは線a'b'c'のように翼を斜め横断するような経路をとるはず。 このような場合、実際のレイノルズ数は翼弦A'B'C'の長さではなく翼面付近の気流の経路a'b'c'の長さを基準とするべきなのでしょうか? 以上よろしくお願いいたします。 みいつ |
- 翼は外部流れの一種なので、A'B'C'でよいと思います。
ところで、先般の「翼根失速」でも思ったのですが、貼付されたURLのような、胴体の無い、つまり翼根の境界条件を考えずに、鏡対称を前提にしている資料が多いかんじですね。
これは二次元翼として単純化するつもりならともかく、三次元翼の現象を相手にできるものではないです。
じゃま
- レイノルズ数は桁で把握する程度のものですから、どちらでも実用上の差は生じないのではないでしょうか?
複数機種(たとえば「棒と翼」から全翼機まで含む)を比較しようとする場合など、どこから取ってきた数字なのか忘れさえしなければ、翼弦だろうと、全長だろうと構わない、一桁の誤差だ、といった性質の数値ではないでしょうか?
六
- じゃま様
>翼は外部流れの一種なので、A'B'C'でよいと思います。
なるほど、あくまで翼弦長が関係しているということなのですね。ありがとうございます。
>胴体の無い、つまり翼根の境界条件を考えずに、鏡対称を前提にしている資料が多いかんじですね。
>これは二次元翼として単純化するつもりならともかく、三次元翼の現象を相手にできるものではないです。
そこまで深く考えていませんでした。
これらの画像は分かりやすく説明するために僕が描いたものなので、資料と呼べるものではないです。
六様
>レイノルズ数は桁で把握する程度のものですから、どちらでも実用上の差は生じないのではないでしょうか?
>翼弦だろうと、全長だろうと構わない、一桁の誤差だ
ええ、普通の航空機でならば、全くおっしゃる通りです。
しかし、特殊なジャンルになりますが模型航空機という分野に限っていえば、
必ずしもそれが当てはまらないような気がしてならないのです。
レイノルズ数がもともと小さい模型航空機の世界では、それこそ1桁レベルのレイノルズ数の変化が飛行性能に直結するのではないか、という事です。
なぜ僕がそう思ったかといいますと、
例えばグライダー、本物のグライダーはアスペクト比が15〜22ぐらいありますよね。
一方ラジコングライダーでは、かつては実機と同様にアスペクト比15程度が良いとされていましたが、
現在ではアスペクト比10程度が良いと言われています。
カーボンなどの素材技術が進歩して強度的な問題が緩和されてきているにも関わらず、最良とされるアスペクト比に2倍もの差が出るのはなぜか。
その理由として、いくつかのウェブサイトや手持ちの本には
「同じ面積ではアスペクト比が高い方が誘導抵抗が小さいと先に述べましたが、同じ面積でアスペクト比を大きくすると翼弦長が短くなり、レイノルズ数が小さくなるため、(中略)抵抗係数が大きくなる場合があります。つまり、アスペクト比を大きくする事で誘導抵抗を小さくする事が出来るが、抵抗係数が大きくなってしまいトータルの抵抗が大きくなる事もあり得るのです。このようなことは通常の航空機では起こりませんが、模型飛行機の世界ではこのような現象が起こりえるのです。」
などと書かれている訳です。
みいつ
- 主翼面積を変えずに、アスペクト比15の主翼で翼弦長をアスペクト比10相当にできれば、
レイノルズ数が上がって誘導抵抗は下がって最高だぜ!!
こんな事を、無茶苦茶極まりない事を承知でなんとかできないか考えた結果、
今回の質問のように「翼に対して気流を斜め横断させたらレイノルズ数が上がるんじゃないか」って考え付いたのです。
みいつ
- URLの2つの翼は、同じ翼面積・同じ翼幅で同じアスペクト比で、どこを取っても同じ翼弦長です。
翼弦長AとA’は全く同じ長さだけれども、そこを通過する気流の経路a'の長さはaよりも長くなる。つまり後退翼や前進翼では、実質的にその空気は翼弦長a'の翼を通過した事と同じになり、その分だけレイノルズ数は上がるのではないか?
・・・そういう発想でした。
みいつ
- レイノルズ数というのは例えばこういうものです。
スケール1/1の実機と、1/10の風洞模型があったとします。風洞模型の方は長さの比率が1/10になっているのですから、それに当てる風の速度も1/10にすべきなのか。そうは単純にはいかない。なぜならこの場合、空気そのものが1/10に縮小されているわけではないからです。ここを補正するのがレイノルズ数である。
つまり、レイノルズ数とはそれを稼いでどうこうするためのものではなくて、比率としての上での空気の条件を定めるものであるわけです。
同じ翼型でもそれがサイズとして大きい場合と小さい場合では効果に変化が出る。テーパー翼の場合、翌根と翼端では翼型のサイズが変わりますから同じ翼型を使用していても違いが出てきます。しかしながらテーパー翼の場合、実際には翌根からと翼端にかけて単純に翼型が縮小されてゆくのではなく、厚みも変わってゆきます。前縁半径とそれ以降に続く矢高の関係も変わってゆき、全体としてのスケールの変化だけでは計れない違いが生じてくるわけです。
前進翼、後退翼の場合も同じで、翼型を気流に対して斜めに置くと単純に翼型の比率が変わるのではなく、厚みの比率も変わってきて薄翼になり、そのこと自体で特性が変化してゆきます。
ですので、単純に気流の経路の長さの比率を微細に割り出しても、あまり本質的ではないのではないか、ということです。
片
- 補足しますと、
翼の抵抗係数Dが、レイノルズ数Reの関数として、
D=f(Re)
と書けるなら、相似形の翼では、翼幅が10cmであっても、1000mmであっても、同じレイノルズ数に対しては同じ抵抗係数になります。
しかし、翼のアスペクト比や前進翼に変えてしまうと、もう相似形ではないので、
D=f(Re)
の関係は、こわれてしまい、
D=g(Re)
という別の関数になってしまいます。
すると、同じレイノルズ数であっても、同じ抵抗係数にはなりません。
「レイノルズ数を調節するために翼の形を変えて、希望する抵抗係数を得る」のは無茶なので、そもそもレイノルズ数は与件givenだからです。
「アスペクト比を大きくする事で誘導抵抗を小さくする事が出来るが、抵抗係数が大きくなってしまいトータルの抵抗が大きくなる」
というのはおもしろい知見ですが、そのように考えられるような実験結果があるのか、計算してみるとそうなるのか、興味あるところです。
じゃま
- 片様、じゃま様
いつもいつも、詳しく丁寧な解説をありがとうございます。
レイノルズ数は空気の流動性の「指標」のようなものだから、つまり、
「これぐらいの“指標"の元ではこのような設計が好ましい」というような判断には使えても、
「望む設計にするために指標の方を変える」事を試みるのは、
考える順番が逆だったのですね。
みいつ
- みいつ様
ラジコングライダーの適切なアスペクト比の件、ひょっとして翼の前縁剥離が関係していないでしょうか?
手元には一様流中の円柱の剥離データ2つしかないのですが、レイノルズ数と剥離角度について、
Re=1.9*10^5→80°(60°でも剥離間近な気もする);Re=6.7*10^5→120°
(この場合は基準長さは円柱直径)
と、勘で書いたら人力飛行機の翼の前縁ってどうしているか心配になりました。
如風
- ・適切なアスペクト比
・翼の前縁剥離
・一様流中の円柱後方の剥離
は、あまり関係がないようにも思えますが。
じゃま
- じゃま様、ありがとうございます。
質問の本体については終わってしまっているスレについて、「質問の理由は」の部分に食いついて簡単に書いて、いきなり前縁剥離をとりあげたため、ご指摘はご尤もです。
実は、アスペクト比問題を考えるときに翼平面形は例えば揚力線理論で考え、粘性については2次元問題として考えて、両者を組み合わせてある程度の推定が可能と考えたのです。そうすればアスペクト比問題は、翼弦長の長短の影響をレイノルズ数の変化で論ずるころができると考えたのが出発点です。
ところが、翼弦長を基準寸法としたときのレイノルズ数に関しては、およそ10^4〜10^5の範囲には、翼厚をもった翼について面白い現象があります。例えば、
Re=4.0*10^4;Clmax=0.45 このときCd=0.1(カンバーのみの翼にまける)
Re=1.2*10^5;Clmax=1.25 このときCd=0.03(カンバーのみの翼に勝つ)
となります。
これに関する面白い話に、リリエンタール、ライト兄弟はRe=10^4クラスの風洞もどき実験装置しかもたなかったため、カンバーのみの翼をもつ機体でそれぞれ飛行に成功したが、実機には実際には厚みのある翼であったほうが適していた、というものです。
こういうわけで、前縁剥離(再付着するバブルを含む)を疑ったのです。グライダーだと特に(L/D)maxが重要で、バブルでもそれなりの影響があるかとおもいまして。
如風
- 意図されていることはわかりました。
むずかしいのは、
・アスペクト比が違う翼は、相似形にはならない
・揚力線理論では、レイノルズ数に含まれる粘性を無視する
・前縁剥離泡は、粘性を無視する場合とそうでない場合で形態と経過が違う。
■アスペクト比の違う二つの翼では、相似形ではなく、
翼弦長が違うから、同じ流速でもレイノルズ数は違う。
■同一のレイノルズ数(≒空気流速)で、違うアスペクト比の翼を比較するには、各々の翼で空気流速を変えなければいけない。
レイノルズ数を変えたら、違うアスペクト比の翼の優劣は比較できない。
みいつさんは、模型と実機では適切なアスペクト比が違うらしい、
それはなぜか、という疑問をもたれたのでしょう。
如月さんが睨んだように、あやしい奴はたくさんいるらしいが、そいつらがどこでどんなことをやらかしているか、わからない。
奴らの総元締めとして、レイノルズ数はどうにも器量に欠ける感じなんです。
六さんが示唆されたように、レイノルズ数に対する感受性sensibilityは、どれほどのものか。
なんでかというと、レイノルズ数は一次元でのみ定義できるパラメータなので、二次元たるアスペクト比と三次元たる揚力線理論を結合するには力不足な感じがするからです。
飛ばしてみて、そうなるんだ、という結果があるのだから、たいへんおもしろいもの
じゃま
- じゃま様
遅くなって申し訳ありません。 また、話をトリビアルなものからRCグライダーにおいて、翼弦長を基準とするレイノルズ数がバイプレーヤーか、またはスタープレーヤーに成って、最適アスペクト比が20か10かに関わり得るかの問題に導いて頂きありがとうございます。
グライダーにとって重要な翼の最小抗力係数は、一般的な航空機ではRe数のせいぜい1/5乗に反比例する程度です。 この場合Re数はバイプレーヤでしょう。
しかしRCグライダーはRe=1〜5*10^5程度で飛行すると思いますがこの領域では、最小抗力係数はRe数の約3/4乗に反比例する程度になり、スタープレーヤーになりえます。 最少抗力係数は、極おおまかに言えば(L/D)maxに反比例しますから。
古い層流翼ではない翼の最小抗力係数(最少形状抵抗係数)については、NACA tech.Rep.586 の28〜29ページに収録されています。 平板の抵抗係数の補助線と共にグラフに示されているのでとても見やすくなっています。
層流翼については、RT.Jonesの翼理論に1例だけ見つけましたが、これも上記と同様な傾向です。
みいつ様の話の元には、しっかりとした裏付けがあるように思われます。
なお、NACAのデータの中には一般的な傾向とは異なる翼も含まれていますので、ある決まった翼型のRCグライダーで、アスペクト比10が良いかは、飛ばしてみなければわからない、というのは じゃま様とおなじです。
如風
- 如月さんは間違っていないと思うんですよ。
でも、NACAのデータにせよ、みな二次元翼でしょう。
アスペクト比の問題は三次元になってしまう。
二次元翼を翼幅方向に広げて考えたときに、翼端の効果が断面毎に変わるから、翼幅の関数としての局所レイノルズ数を定義するとか、なんか解決法があるかもしれないですね。
じゃま
- じゃま様、ありがとうございます。こんどは具体的設計法ですね。
最初に申しあげなければならないのは、「私の手に余るから降参だ」ということです。 詳しい方がおられたら、以下の論についてご助力を!
問題は、NASAの後退翼の大家であった天才R.T.Jonesが「Re数40万以下で(Re数を低下させていったときの)最小抵抗係数の急増は、 たぶん 層流剥離によるものである」と仰っていることです。 なお、 たぶん は曲者で、天才はときに間違える
。
この領域の翼の最少抵抗係数の変化が、平板においてはRe^(-1/2)に比例しているのに対して、これを上回る変化をする理由としては確かに考えられる。
もしそうだとすれば、揚力線理論で揚力分布と誘導抗力分布を計算しても無駄になる可能性がある。 この時点で、私にはお手上げ。
しかし、剥離していないが翼の前縁付近の高速流の影響とも考えられる。 この可能性を追うとすれば、私ならグライダー用の2次元翼型を決め、その翼型の圧力分布を計算し、ポールハウゼンの流れ方向に圧力変化のある場合の層流境界層計算をする。しかし私はこれだけを1か月でやれるか自信がない程度なのです。
話を変えて、今の私がRCグライダーを作るならアスペクト比をどうするかについて考えました。
先ず、Jonesさんに逆らって層流境界層は剥離していないものと考えます。
次に、層流境界層は翼の後退角が小さければ主流方向に流れると考えます。束縛渦、自由渦ともに翼面付近では翼幅方向の速度を誘起しないと考えるからです。
この結果、最少抵抗係数はストリップ法で翼幅方向に分布させることにします。
最後に、揚力線理論で揚力、誘導抗力分布を求め、(L/D)maxが最大になるアスペクト比をさがします。
アスペクト比と迎角をパラメータとした、数多くの計算が必要です。
まあ、こんな具合に最も簡単な方法で攻めてみようと思います。
如風
- 忘れていました。 NACA-TR-586のデータで、翼厚18%の翼は、前縁付近で層流剥離し、小さな剥離泡を生じて再付着し大部分は乱流境界層に覆われているように見えます。 上記は適度に薄い翼についての話です。
如風