1097 日本の水上機について

■日本が運用した水上機は多数ありますが、なぜ、既存の手頃な機体にフロートを付けて開発するという方法を採ったのは二式水戦だけなのでしょうか?


素人考えとしては、既存機にフロートつけて改造したほうが簡単で合理的な気がするのですが。実際に二式水戦はうまくいきましたよね。

また、既存機にフロートを付けて改造するのが思っているほど簡単でも合理的でもないのなら、なぜ二式水戦はこの方法を採ったのか?という話になりますし。

それと、水上偵察機などのような機体のほうが、戦闘機よりもよほど既存機の改造で済みそうな気がするのですが。

単に、既存機に手頃なものがなかっただけなのでしょうか?
それともなにか理由があるのでしょうか?

ご見識をお持ちの方がおられましたら、どうぞよろしくお願いします。
たーぼふぁん

  1. 水上偵察機と陸上/艦上偵察機とでは運用する速度域が大きく違う。複数の搭乗員を乗せなければならない偵察機は戦闘機に較べ馬力荷重が低く、抵抗の大きいフロートを付けるならばより揚力の高い主翼や方向安定性の高い尾翼を低速を甘受して付けたほうが性能が最適化される。
    水上戦闘機は小さいニッチで大して期待されていなかったが、水上偵察機は艦隊の主戦力なのでその用途への最適化が切実。
    と云った処?
    にも。

  2. 最大の理由は、水偵にはカタパルト射出が要求されるからでしょう。
    射出に対応させるには独特の強度設計が必要で、さらに射出重量の制限があるため、ただフロート付ければいいという安直なものではないのです。
    カタパルト射出という条件がなければ、陸上・艦上機からの水上機化はコスト・開発スピードの面でメリットがあるため二式水戦のようにいくつも例があります。
    ただ、改造水上機は巨大なフロートのせいで空力特性が改造前より激変します。それまで適切だった安定性や操縦性・重量バランスなどが一気に崩れます。これに対応して機体の再設計をしているとどんどん抵抗や重量が増え、性能もどんどん悪くなっていきます。
    飛行艇など水上専用機であれば性能悪化は最小限ですむため、あとはメリットとデメリットのバランスを運用者がどうとるかということになります。
    特に日本海軍の場合、水上機に要求される性能が高度なため陸上・艦上機からの改修ではとても要求を満たせなかったのです。
    超音速

  3. 一三式艦攻には水上機型がありますね。
    昭和5年頃には三座攻撃機は、艦上機型と水上機型の両方を作る水陸互換式が考えられていました。

    また、二座戦闘機である観測機も基本的には水陸互換式で考えられています。

    このように、日本海軍では水陸互換式に飛行機を作ることはたびたびという考えられていたのでした。


  4. 九三式中練も水上機型がありますね。

    陸軍では九四式偵察機を大陸の河川などから飛ばすためフロートを付けて水上機化する実験が行われていました。その際の報告によれば海軍の水上機と同等の耐波性や海上での耐久性を持たせるには機体側の根本的な改修が必要であり、それをやると性能が大幅に低下するので最初から水上機として開発した方が良いとされています。
    陸軍の陸上機と海軍の艦上機では多少条件が違うかもしれませんが、基本的には水上機化に伴う性能低下をどこまで許容出来るかが既存機を改造するか水上機として新規開発するかの分かれ目だったのかなと。
    expery

  5. 皆様、とても詳しい解説をしていただき、ありがとうございます!

    たーぼふぁん

  6. >2
    それはフロートと機体の接合部の強度ですか?もし米空母のようなカタパルトが実用化されていたら日本の艦上機は強度不足で使えなかったのでしょうか?
    携帯電話

  7. >それはフロートと機体の接合部の強度ですか?
    単フロートの場合はそうです。双フロートの場合カタパルトフックは胴体に設置されます。
    >もし米空母のようなカタパルトが実用化されていたら日本の艦上機は強度不足で使えなかったのでしょうか?
    火薬式カタパルトの呉式2号5型は射出時に3〜4Gの加速度がかかります。水偵は始めからこのGに耐えるよう設計されますが、既存の艦上機にはそこまでの強度はないわけです。ちなみに米空母のH4Bカタパルトでかかる加速度は2.8Gです。
    既存の艦上機も射出できるようにと、日本海軍は1935年頃から空母用カタパルトとしてフライホイール式や圧搾空気式を試作し失敗に終わるのですが、失敗の原因はカタパルトの能力不足であって、機体側ではありません。
    つまり質問文に矛盾があるんですね。艦上機が強度不足で使えないようなものを作ってもそれは「実用化」とはいわないでしょう。
    超音速

  8. 水上戦闘機としては、川西の強風の採用が決まっていました。
    しかし開発にまだ時間がかかるので、太平洋戦争開戦時に、
    南方作戦において陸上基地整備までに、短期制空権確保の為に、
    急遽、余裕のある中島飛行機に零戦にフロートを付けさせたのが二式水戦です。
    海軍の水上機開発は、川西飛行機が請け負っており、他社は積極的に水上機開発に携わらなかった。
    だから、既存機にフロートをつけると言う思想がなかった。
    二式水戦は、特殊なケースであり、タマタマ上手くいっただけです。

    蛇足ながら、反対のケースとして、水上→陸上が有名な紫電です。
    決戦機として、三菱、中島に他の飛行機の生産を止めさせて一本化しました。
    陸上機製造の経験の無い川西製は、翼面仕上げが荒く、速度が出なかったり、ダイブでシワが出来たりしたとのこと。
    mm058114

  9. あれ中島にも紫電改生産計画はあったんですか?初めて聞きました。
    pops

  10. 1941年1月に開発の始まった二式水戦を「太平洋戦争開戦時に、
    南方作戦において陸上基地整備までに、短期制空権確保の為に、
    急遽、余裕のある中島飛行機に零戦にフロートを付けさせたのが二式水戦です。」は無理があります。

    「川西の強風の採用が決まっていました。」強風の初飛行が1942年5月、1943年12月正式採用です。開戦時に強風の採用が決まっていたということはありません(無論、採用を前提の計画はありましたがあくまでも予定であって決定ではありません)。
    pops

  11. 8.>海軍の水上機開発は、川西飛行機が請け負っており、他社は積極的に水上機開発に携わらなかった。
    愛知
    90式1号・96式・98式・零式水偵・二式練習飛行艇・瑞雲・晴嵐
    中島
    15式・90式2号・95式水偵・二式水戦
    上記のようなメーカーは「積極的」ではなかったのでしょうか。

    >だから、既存機にフロートをつけると言う思想がなかった。
    3.と4.の回答は?
    超音速

  12. そもそも海軍機は初期にはその大半が水上機であったことは忘れるべきではありません。したがって海軍機の製造にたずさわるすべての廠社は水上機の開発歴を有しています。
    比較的希薄なのは三菱ですが、ここは艦上機用のメーカーを確保するために海軍と関係する造船メーカーからピックアップされたのが最初だからです。それでも、ロールバッハの全金属製飛行艇技術の国内導入のための窓口的役割りを果たしていたりもしました。
    昭和14年、17年の実計でも中島、愛知、川西、渡辺、日飛と横に並んで水上機飛行艇の試製を最低でも一機種以上担当することになっています。
    この中で最も水上機比率が高かったのは、大手の中ではたしかに川西です。しかしながら、川西は海軍から大掛かりな天下りが行われて、将来的には海軍にとって最も近い関係の機体メーカーとして、今後艦上機以上に重要な役割りを担うことになるはずの陸上戦闘機、陸上攻撃機の中核的メーカーとさせて行く腹積もりが海軍部内に持たれていたのだと思います。
    このように、海軍機の試製開発に当たって方針を抱くのは海軍なのであり、それぞれの会社が「既存機にフロートをつけると言う思想がなかった」かどうかはまったく関係がありません。
    どちらかといえば水上機以外に方向を向けられていた三菱や中島に、零式観測機や二式水戦を開発させるにあたっても、当然の如く海軍側からの技術指導が行われています。

    その零式観測機は「零式水上観測機」ではなく「零式観測機」が正しい名前です。これは観測機という機種が主力艦部隊随伴空母を使った艦上機として運用されるべきなのか、主力艦自体が射出する水上機とするべきなのか模索された末のひとつの結果だからです。
    この場合、両方に使える「水陸互換式」ということも考えに含まれていました。お題にある既存機の水上機化とは意味合いは違いはしますが、同じ機体に脚をつけたり浮舟をつかたりして使い分けるという発想は、海軍としては当然のものだったのです。
    中島十七試戦兼爆う水上機化した中島十九試水爆、というようなプランもありましたし、川西十八試水戦を陸上機化して川西十九試局戦とするというようなプランもあったのです。
    日本海軍の水上機と陸上機をクロスオーバーさせる開発計画を抱いていたのです。


  13. 関連する事で追加で質問させていただきます。

    2.のご回答に
    >改造水上機は巨大なフロートのせいで空力特性が改造前より激変します。それまで適切だった安定性や操縦性・重量バランスなどが一気に崩れます。
    とありますが、これは水上機→陸上機の改造でも激変しますよね?

    12.の
    >水陸互換式
    のお話ですが、同じ機体を用いて脚にしたりフロートにしたりする際の空力特性の変化は、設計段階から水陸互換を踏まえて設計した場合は、大きな問題とはならずに済むという事でしょうか?
    たーぼふぁん

  14. 水上機→陸上機の一例として晴嵐→南山(晴嵐改)があります。
    晴嵐は八〇番爆弾搭載・フロート非装備で射出され出撃、という計画を持っていました。フロート非装備で変化した飛行特性の確認と訓練のため南山という実機を作る必要があったわけです。
    陸上機→水上機の場合ふつう垂直尾翼が増積されますが、南山では逆に垂直尾翼が一部切り取られています。(折り畳み部を外しただけ)
    米海軍のヴォートOS2U・カーチスSO3Cなどは初めから水陸互換式に設計されていますので、フロートと車輪の交換だけで済むようになってます。
    超音速

  15. 14.>ありがとうございます!納得です。
    たーぼふぁん

  16. 強風→紫電 についても同様で、特に紫電改になってから垂直尾翼の減積を繰り返してます。



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