1384 誉のブースト圧制限の理由はオクタン価(→ノックの発生)にあったのでしょうか?(そもそも旧軍で具体的な原因箇所や要素が特定されていたのでしょうかね?)
確か運転制限の「直接的」理由は「高ブースト時に筒温異常上昇と振動」ってどこかで見たんです(記憶違いだったらすみません)
これって明らかにノックの発生ですよね
(91オクタン燃料で水メタノール噴射をしてもまだアンチノック性が不十分で100オクタン相当には程遠い?)

栄には95オクタン燃料時の高ブースト圧があり、ハ115-2に相当するブースト圧で回していたそうですから、水噴射付栄とかはあくまで91→95オクタンを狙ったものでしょう
誉も実態としては、91オクタン燃料に水メタノール噴射を併用しても95オクタン相当ぐらいにしかならなかった、というのが考えられませんか?
誉の吸気圧制限の「根本的」原因の特定について何か知っておられる方はいませんか?
パンジャンドラム

  1. 私も特別詳しい訳ではないのですが、ノッキングに関しては、十分に気化していないガソリン、そして水エタノール噴射時の水エタノールが過給機のインペラの翼とディフューザの羽根によって仕切られてしまい、各シリンダーに不均一分配されてしまったためにノッキングが発生ということが原因だそうです
    酸素噴射装置開発者八田龍太郎技師の19年3月以降の研究によりますと、給入室の壁を伝って流れていく液状のガソリンは壁を伝る層を形成するけど壁自体が曲線なために液体の層でも場所によっては不均一になってしまい、案内羽根の中心ではなく円周下部にに集中して吸い込まれてしまったそうな
    誉の場合はこの給入室の壁を流れる液状ガソリンを案内羽根の吸い込み口の入り口上部に持ってこうとスキージャンプ台のようなものを給入室の壁に設けて、空中にジャンプさせようとしました
    しかし実験の結果、管の内部の空気は非常に高速に流れている一方で液体の流速は非常に遅く、ジャンプ台から飛び立てるほどの完成を得ることができず、むしろジャンプ台の端まで行くと気流の風圧に押しつぶされて逆に飛び立てず、案内羽根外周に溜まってしまいました
    この混合気分布の解決法として八田技師は液体が気流のせいで飛び立てない現象を逆手に利用して、初めから過給機のインペラ駆動軸上面に液体ガソリンなどを集めてから案内羽根の吸込口に導くようにしたそうです

    まあ誉の不調原因はほかにもいくつかあるのですけど
    リーン

  2. リーン様回答ありがとうございます。
    ハ115(栄)でその様な話を聞かないのですが、特に設計が悪かったという事でしょうか
    この場合100オクタン燃料を入れてもブースト圧制限には大して変わりはありませんね
    出力制限下の誉エンジン自体は離昇時に限り+400mmHgのブースト圧が許されていますから、+350mmHgの公称ブースト圧もごく短時間なら出せるのでしょうか
    不均一分配の発生は確率的な問題であって、短時間なら発生リスクは微小量で済むとか?
    不均一分配というのはもうその運転の時点で必ず起こるというものでしょうか
    パンジャンドラム

  3. 自分もそこまで詳しくはないのですが、どうもハ115でも水エタノール噴射や酸素噴射時には同様の現象が海軍での月光を使った試験の時に確認され、八田技師が対処に追われたということだそうです
    八田技師によりますと混合気分配不均一の問題自体は栄エンジンでも元から存在したそうです
    ただノーマルな栄の時点ではまだ水エタノール噴射が採用されてなかったしブースト圧も300mmHgになってなかったので誉ほど深刻化してなかったのではないかと(勝手な推測)
    リーン

  4. 航空燃料の性能にはオクタン価で示される耐爆性と、燃料の気化しやすさをみる分溜性状との二つの指標があります。
    これらを一緒にしているので、質問に山盛りに盛り込まれている疑問(全てこの方向で間違っています)や回答に含まれる憶測が生まれているようです。

    混合気の分配不均等問題は寿四〇型で発生し、高オクタン燃料の特別供給で対策されています。
    これはオクタン価の問題に見えてしまいますが、実際には混合気の問題で、そのために中島飛行機は低圧燃料噴射装置を開発し始めるのです。

    BUN

  5. BUN様ありがとうございます。航空九一揮発油は航空九二揮発油の代替品でいろいろと質が悪いと見た記憶があります。分留性状にも劣っていたとすればやはり燃料のグレードである程度解決する話かもしれませんでした。
    しかし高オクタン燃料が分留性状の対策にもなるとは知りませんでした。誉が低圧燃料噴射を実用化できていればと悔やまれます。

    >リーン様、BUN様
    私は「誉二一型は水メタノール噴射は過給機翼車内、気化器が2連降流115丙c型に変更」になったとみて、「よくわからないが何となく混合気と水の分配は対策済み」であるかの様に勝手に考えており、となるとノックの発生を疑っていました。
    この二一型の時点で例の混合気分配対策を八田技師が実施していたのでしょうか。
    あるいは具体的にいつのタイミングで対策が取られたのか、記載がありますか?

    パンジャンドラム

  6. それも違います。
    高いオクタンナンバーの燃料の分溜性状が良いのは、結果的にそうなることが多いとうだけです。
    分溜性状を悪化させる要因となる耐爆剤が多く添加される燃料はオクタン価が高くなっても気化しにくい、ということです。
    米軍の130グレード燃料には航空九一揮発油と同じ欠点があり、機構的な対策が採られています。
    また、耐爆剤を大量に添加しなくても高いオクタン価が得られる燃料もあります。
    航空燃料は一様ではないのです。


    誉のような多気筒発動機の持つ混合気分配問題は設計当初から意識されていて、低圧燃料噴射装置に関する研究もほぼ同時に始まっています。
    これは混合気の分配不均等問題は「寿」四〇型から認識されているからです。
    以前にも雑誌に発表していますが、中島飛行機研究報告でこの問題についていくつかのレポートが残されているのです。

    回答1に書かれているような内容は質問の答ではなくて、
    低圧燃料噴射の実用化が遅れる中で採られた対策についての断片的な話ですから
    かえって物事の流れが解りにくくなってしまいますね。

    それから、オクタン価問題は水噴射で解決、とはいっても、
    それで何もかもが解決した訳ではないことも大切です。
    水噴射自体が実用化に臨むと色々と問題を抱えた技術だったのです。
    しかも水噴射で解決できるのはオクタン価の低下だけです。

    色々な要因が重なっている問題なので、
    よく調べて足場を固めないうちにそこを土台に次に進もうとすると高転び転ぶのが誉問題なのです。




    BUN

  7. 確かに91オクタン燃料は低質な燃料に添加剤を入れて92オクタンの代替としたものですから、ということは「精製法による根っからの」ハイオクタン燃料でなくてはならないという事ですね
    ではやはり順序としては燃料問題が先に来ての誉のブースト制限問題という事でよろしいですか?
    そして気になるのが、純然たる燃料本来のオクタン価である92オクタン燃料ならば結果は遥かに良くなったのでしょうか?
    パンジャンドラム

  8. 追記
    以前、私も低圧燃料噴射の件にインスパイアされて誉は迂闊な18気筒+キャブレターが悪玉だ、とここで発言した事がありますが、その件以降のいずれかで、混合気配分よりも燃料ではないか?、と疑う様になりました(確か荒薪少佐だかの回想で100オクタン燃料により高度8000mで640km/hなど)
    しかしそれらは複雑に絡み合っており、やはり91オクタン路線ではやはりキャブレター周りに主な原因があり、もっと遡れば、そもそも91オクタン燃料が悪玉だった、しかも問題なのは気化性能の方でもあったという事だと今は思います

    パンジャンドラム

  9.  誉の吸気制限の基本的な要因は航空九一揮発油の使用だと思われます。そもそも誉は100オクタン航空燃料を使用して設計されたものであり、91にしろ92でも吸気制限を受けるのは当たり前の事だと思います。しかし、航空九一揮発油は当時の日本の状況からすれば、決して低質な燃料ではありません。そもそも誉開発時から100オクタンの入手は英米からしか不可能なのでしたから、航空九一揮発油は当時、日本国内から入手できる最良の燃料だったはずです。例えば、昭和19年岩国の陸軍燃料廠の作業工程を見ても航空九一揮発油の記載しかなく、それより高いオクタン価の航空燃料の生産の可能性はありません。航空九一揮発油はそもそも分溜性状をある程度犠牲にすることで達成されたものであり、妥協の産物とも言えます。MWも当時の日本には技術的に信頼性も無く、カバーできるものではありません。手元に米軍のB-29で使われた100オクタン航空揮発油と独逸のB-4航空燃料とC-3航空燃料の分溜試験の結果がありますが、それを見れば米軍が蒸気圧調整剤を添加した理由と独逸が燃料噴射ポンプを使用した理由がおぼろげながら見えてくるような気がします。航空九一揮発油の分溜試験の記録は存じ上げませんが、91と100ではやはり超えられない大きな壁があるのだと思います。


  10. 1、誉の運転制限の議論でいつも思いますのは、まず例えば誉21で言うならば、カタログ値2000hp/3000rpm/+500mmhgブーストはどう言う規格のガソリンで保障した値かと言うことです。それがどうもハッキリしていないように思います。wikiなどで色々調べてみると、92オクタンの燃料(航空92揮発油?)が可能性として高い?と言う気がしています。しかし何れにしても、議論の前提として、そこをまずハッキリさせる必要があると思います。
    2、仮にカタログ値が航空92で保証されたものだとするならば、姫様が言われているように、誉の運転制限の問題は、燃料事情の悪化により、航空92を航空91に代替えした時に生じた問題ではないか・・・と言う気がして来ました。
    3、誉の性能信頼性悪化の問題が燃料品質の低下によるものと言う議論がいつもなされますが、その燃料品質の低下と言うのは、具体的に何を指しているかと言うことも、今一つはっきりしません。航空92にせよ航空91にせよ燃料規格を満足できない規格外品が大量に出回った・・・それで誉の性能信頼性上の問題が生じたと言うことならば、これは運転制限をかけようが何をしようが、エンジンの運転環境が破綻していると言うことですから、エンジン側では打つ手なしです。しかし誉の問題はこういう問題なのだろうかと言うことです。
    3、それで誉の問題と言うのは、姫様が言われているように、航空92を航空91に代替えしようとした時に生じて来た問題ではないかと思いました。それでオクタン価は1オクタン低下しますが、それで性能信頼性とも保証できると考えていたところ、分溜性状の悪化により、燃料の気筒分配不良→不整燃焼の発生→筒温上昇、異常振動等に至ったと言うことではないか・・・?
    4、もう一つはっきりさせる必要があるのは、誉の運転制限を決めた時の燃料規格ですね。これも今一つはっきりしません・・・。運転制限をしたから、少々の粗悪燃料でも使えると言うことではなくて、運転制限下でも性能信頼性を保証するには、燃料規格が定まっている必要があります。それがどう言うものか、未だはっきりしていないように思います。それでこれまでの話しの流れで行くと、それは航空91ではないかと言うことになりますがどうでしょうか・・・?つまり誉21の運転制限は、航空91に対しての運転制限ということになる・・・?
    5、そう言う話しからしますと、誉23の低圧燃料噴射が、燃料分配不良対策として期待されたと言うことも、分かってくる気がします。と言いますのは、この中島の低圧燃料噴射システムは、シングルポイント・インジェクションで本来ならば、三菱の金星などのマルチポイント・インジェクションよりも、燃料分配性能は一段劣るはずだからです。(ただし製造コストは前者が安い)それにもかかわらずこの中島の低圧燃料噴射システムが、燃料分配対策として期待されたと言うのは、低圧燃料噴射と言えども正圧による燃料噴射ですから、気化器よりも、燃料噴霧の気化性能は格段に高いということで、特に分溜性状の悪い燃料に対しては、一定の燃料分配改善効果があったのではないかと思われます。



    飛行機猫

  11. 姫さん
    復活ですね。
    日本が造り続けた航空九二揮発油とは一体何なのか?そして航空九一揮発油とは何なのか?
    まだまだ面白い「社史」がありますから、どうぞお楽しみください。
    BUN

  12. 飛行機猫さん
    運転制限に関してはキ八十四取扱法など、読むべき資料がありますから、ぜひお読みください。
    挙げられた疑問点はこの問題の基礎となる資料で「はっきり」しているのです。
    BUN

  13. >12
    BUN様ありがとうございます。キ八十四取扱法というような1次資料があるのですね。でも地方在住で、アマチュアの私には、なかなか見る機会がないでしょう。これらのことがハッキリと書かれた記事を本屋さんで買える日を楽しみにしたいと思います。
    飛行機猫

  14. 11>
    BUN様ありがとうございます。書いてある一次資料があるのですね。でも地方在住で、マニアの私には、見る機会は無いでしょう。生きている間に、これらの事が発表されることを切望いたします。



  15. アマゾンなどネットで買えますよ。丸の2018年の2月号の付録です。
    パンジャンドラム


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