1579 テーパー翼機などで主翼の翼型が胴体付近と翼端で違うのはなぜでしょうか? 
例えば零戦では胴体付近がNACA 2315、翼端がNACA 3309となっています(ネット情報なので怪しいですが)。これ以外にも翼端に向かって翼厚比が小さく、薄くなる機体が多いです。
片持ち翼では翼端になるに従って力あたりの曲げモーメントが大きくなるので、胴体付近で揚力を大きく、翼端付近で揚力を小さくするのが良いです。しかしそれはテーパー翼や楕円翼にする事で解決し、翼型まで変えなくても良いのではないでしょうか?
また先程の零戦の例で言えば、NACA 2315からNACA 3309に変化するまでの中間部分は両者のどちらでもない翼型になります。この中間部分翼型はしっかりとした性能が出せるのでしょうか? しっかりとした性能だと実験で証明されている翼型で胴体付近から翼端まで一貫した方が全体の性能も良いと思えます。

長々と失礼しましたが、なぜ胴体付近と翼端で違うのか教えて頂きたいです。
ナロー

  1. 1569で、ガス欠さんが有意なリンク先を紹介してくれたので再掲します。
    http://www5b.biglobe.ne.jp/~mmizu_hm/house_011.htm

    なお、このダイヤグラムは捩じり下げを反映していない、翼端まで一様な翼型を仮想したものと思います。

    実際はテーパー翼には捩じり下げが付けられます。
    捩じり下げとは二種類あって、幾何学的捩じり下げ(Geometric Washout)と空力的捩じり下げ(Aerodynamics Washout)があります。
    翼端に向かって迎え角を下げることが幾何学的捩じり下げ、つまり単なる「捩じり下げ」がこれです。翼端失速対策として行われます。
    空力的捩じり下げとは翼端に向かって翼厚比を薄くしていくことです。誘導抗力を抑えるために行われます。

    誘導抗力を抑えるには、リンク先の図にある楕円翼のように翼端まで揚力係数を一様にするのが望ましいが、テーパー翼のそれは翼端に向かって揚力係数が跳ね上がっていますので、この対策として翼端に向かって翼厚比を薄くしていくのです。

    超音速

  2. 多分ご承知とは思いますが、揚力係数とは、揚力とは違います。
    揚力係数×翼弦長×気速の2乗×空気密度=揚力
    念押しのため書いておきます。


    翼幅位置によって揚力係数が違うのは有効迎え角が位置によって違うためです。
    揚力を発生している翼は吹き下ろしがあるため、翼へ流入する気流は斜め下向きとなり、迎え角は進行軸よりマイナスになります。これを有効迎え角といいます。このため主翼は胴体中心線より若干プラス角度で取り付けするのが一般的です。

    矩形翼では翼端渦が関係して翼端に近いほうが有効迎え角が小さくなっています。したがって揚力係数も低下します。
    矩形翼の揚力係数の変化は翼端方向に放物線を描くように低下するので、翼弦長を放物線を描くように短くしていけば揚力係数変化を一様にできる。楕円翼が楕円なのはこういう理屈です。
    実際には翼端と翼根でのレイノルズ数の違いにより翼端失速が発生するため、楕円翼でも幾何学的捩じり下げが行なわれます。

    テーパー翼では翼根で翼弦が長いことで揚力が強いため吹き下ろしも強く、したがって有効迎え角が低下。翼端はその逆で揚力が弱く、気速は同じなので相対的に吹きおろしは弱いため有効迎え角が大。よって翼端に向かって揚力係数が上昇します。
    このため翼端に向かって翼厚比を薄くし揚力係数を下げます。
    翼厚比が薄いと失速特性が悪くなるので翼端失速が発生します。翼端失速対策として幾何学的捩じり下げが行なわれます。

    零戦の主翼が翼端でカンバーの大きい翼型にしているのも翼端失速対策です。カンバーが大きければ薄翼・低レイノルズ数でも失速しにくいです。
    欠点としてモーメント係数がマイナス方向に強くなるのでフラッターの原因になります。

    構造的には、翼根に向かって厚くなっていたほうが主桁の高さをとれるので強度・剛性が確保でき、内部空間利用でも有利です。翼端側で薄くなることで軽量化できます。
    超音速

  3. なぜ翼幅位置で揚力係数変化(有効迎え角変化)がないほうが誘導抗力を抑えられるのかという説明をします。

    水平飛行する飛行機は速度によって迎え角を変える(揚力係数を変える)というのはご了解していると思います。
    迎え角が大きいと、揚力のベクトルが後ろに倒れる分は抗力の成分となります。
    これが誘導抗力です。
    翼幅位置による有効迎え角の変化が大きいと、ある速度で巡航時にとった迎え角から外れる部分が多くなり、この外れた部分が余計な誘導抗力となるのです。

    かなり長文となりましたが、表現力のせいでわかりにくければ申し訳ありません。
    超音速

  4. 零戦の翼型について
    朝日ソノラマ 零戦 堀越+奥宮共著 P147〜には
    「九六艦戦、九六陸攻、九七司偵以下多くの第一線三菱機に採用されたB-9翼型の肉付けとNACA23012系に似た矢高線とを組み合わせて新たに造った三菱118番翼型を採用した」
    「この翼型の揚抗力曲線はB-9と同等で、風圧中心の移動はその半分ぐらいというなかなか優秀な成績」
    「翼端以外の矢高は弦長の2%、翼端付近の矢高は3%とした」とあります

    主翼は揚力を産む事が最大の任務ですが外翼には横操縦をするエルロンがついており尾翼同様に舵を兼ねています
    主翼平面形は軽量化とか誘導抵抗とか色々な事情で色々ですが
    失速が翼端から始まる事だけは避けたいという点は共通なので全体を勘案しながらアレコレの手が打たれた結果、質問のような事が起こります
    http://totsanhp.la.coocan.jp/pht/AeroDynamics/Sissoku_5.jpg
    https://i.pinimg.com/564x/5c/84/b9/5c84b942169416d708add5fbe23a64bd.jpg
    https://ja.wikipedia.org/wiki/XF-91_(%E6%88%A6%E9%97%98%E6%A9%9F)

    翼端失速の悪癖がある場合、左右同時に失速する事はまず無く
    気流条件の悪い片側が先に失速するので不意自転を起こします
    ガス欠

  5. 断面二次モーメントは翼圧の3乗に比例するから、厚いほうが曲げ剛性を高めやすいんだろうと漠然と思ってました(ゴミレス)
    みいつ

  6. 失礼、翼圧ではなく翼厚です。ごめんなさい。
    みいつ

  7. 皆様の回答から、特に翼端失速対策の要因が大きいと理解できます。

    超音速様
    揚力を発生している翼は吹き下ろしがあるため、翼へ流入する気流は斜め下向きとなり、迎え角は進行軸よりマイナスになる、という部分が中々理解出来ないでいます。翼型のキャンバーが影響して気流が斜め下向きとなるのは分かりますが、なぜ迎え角は進行軸よりマイナスになるのでしょうか。勉強不足で申し訳ありませんが、教えて頂きたいです
    ナロー

  8. 無限翼では流入空気と進行軸は同じものとして取り扱い一様流と呼びますが、三次元翼では吹き下ろしの気速度が合成され斜め下向きの流入空気となります。この角度を誘導迎え角といいます。
    誘導迎え角から幾何学的迎え角(進行軸に対する迎え角)を引いたものを有効迎え角と呼びます。

    揚力の発生ベクトルは流入空気に対し90度上向き方向となりますが、誘導迎え角がつくことによって揚力ベクトルが斜め後ろとなり、後方成分が誘導抗力となるのです。

    吹き下ろし(または吹き下げ)の発生メカニズムは、束縛渦によって前方で吹き上げが起き、馬蹄渦が吹き下ろしを起こすとか厳密に説明すると大変なので省略します。(無責任)
    超音速

  9. 少し話が脱線しますが、三菱隼型試作戦闘機の時代でもこの様に翼端に向かって薄くなるのでしょうか?自分は隼型試作戦闘機の模型を作りたいと考えており、1577番の質問でも主翼翼型を質問しました。超音速様によればゲッチンゲン387と教えて頂きましたが、これは胴体付近の翼型と思われ、写真などを見ても翼端ではもっと薄く見えます。主翼翼型は航空機それぞれで個性が有りますが、「翼端に使うならコレだ!」といった翼型でも有ったのでしょうか
    ナロー

  10. 空力的捩じり下げは1928-29年ぐらいのロッキード・ヴェガやツポレフR-6あたりから始まったようです。
    そこから一気に普及したのではなく、単葉・長距離機に適用されていったのでしょう。

    隼型試作戦闘機の主翼は一応テーパー翼のようなので、翼端で薄く見えるのは単にテーパーによるものだと思います。
    超音速


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