1782 |
「液冷戦闘機 飛燕」という本を読み、ネットでもこの機体について調べたのですが、 液冷エンジンの整備や品質維持に大変苦労し後期型では空冷エンジンに換装したようですが、 なぜ空冷エンジンより液冷エンジンの方が整備性に難があるのですか? 単純に構造が複雑だからでしょうか? レイ |
- 空冷はエンジンを外気に触れさせて冷やすだけですが、液冷の場合、冷却液をエンジン周囲に循環させる必要があるので、構造が複雑になりますし、重量も増加します。このため、日本では液冷式が発達しなかったたため、BMWやダイムラー・ベンツ(DB)といったドイツのエンジンを導入したわけです。
しかし、ドイツが求める技術水準を日本側が持っていなかったため、DB601のコピーであるハ40は、比較的液冷に慣れていた川崎でも製造が困難で、ベアリングの精度が本来より1-2桁低いとか、クランクシャフトが80時間で折れたというような問題が生じます。
これは、当時の日本の冶金技術が低かったからですが、戦略物資の不足が拍車をかけます。
実際、後に某社の工場長になった伯父は中国上空でエンジンが焼付を起こして緊急脱出せざるを得なかったわけですが、ああいうものを鋳造する技術が日本にはなかったからだと述懐しています。
したがって、単純に構造が複雑なだけでなく、作ったり、整備するだけの技術水準になかったからということになります。
なお、空冷の飛燕は、一般には5式戦闘機と呼ばれています(もっとも、5式というのは制式名称ではないとのことですので、後期型でもいいのかなとは思うのですが)。
hush
- 日本のエンジンは空冷であっても、配管のパッキンやシールの技術に劣るため、油漏れが常でした。
液冷となると水漏れが加わるわけで、三式戦はエンジンからラジエターまでの配管が長いため漏れる箇所も多く整備の手間がかかります。
ハ40の場合、加圧冷却のためこの傾向は助長されます。
フルカン接手を使用する過給器も曲者で、2万rpmで回転する過給器は回転軸がクランク軸に対して直角方向になっており、飛行機が運動するとジャイロモーメントが発生するため、ケースの取り付けボルトにガタがきて過給器の能力が低下するという癖がありました。
常にボルトを増し締めすればいいのですが、その癖を知ってないといけないのです。
同じくフルカン接手のオイルポンプのノズルを調整する必要があるのですが、前線のほとんどの整備員は正しい調整データを知らされておらず、取扱説明書も十分行き渡っていなかったそうです。
つまりエンジンや機体の問題以外に、整備支援体制が貧弱だったことが液冷で苦労した原因だったのです。
五式戦も水メタノール噴射装置の調整が難しく、稼働率はそれほど高くなかったそうです。
超音速
- 空冷星型と比べて液冷V型の難点は、クランクシャフトの長さ(長いとねじり応力が大きくなって折れやすい、クランクシャフトを支持するベアリングの数が多く、焼き付きやすい)と、水漏れではないでしょうか。日本の場合、冶金技術や加工技術やパッキン等の素材技術がそれに対応できる水準になかったと。
雷鳥
- みなさんありがとうございました。
この手の戦記本を読んだ最初の本なのでこの戦闘機が好きになりました。
当時ならではの苦労があったのですね。勉強になりました。
レイ
- 便乗質問で申し訳ないのですが、液冷エンジンの空冷エンジンに対する優位性って何なんでしょう?
かめ
- >5
エンジン・レイアウトの関係で液冷は投影面積が少なくしやすく、大出力が取り出しやすくなります。
より詳しいことは https://www.google.com/search?client=firefox-b-d&q=%E6%B6%B2%E5%86%B7%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%A9%BA%E5%86%B7%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E5%84%AA%E4%BD%8D%E6%80%A7 をご確認ください。
hush
- 液冷エンジン(列型エンジン)のメリットとしてモーターカノンが装備可能という点もあります。
空冷エンジンではプロペラ後流がカウリング前面に当たり圧縮衝撃波が発生して大きな抵抗となるという説が1930年代後半の航空界で広まりました。
そのため空冷では600km/hを超えられないとまで言われ、これからは液冷の時代みたいな声も上がりました。
日本陸海軍がDB601の導入を急いだのもそのような声を聞いてのことです。
空冷一辺倒だった米海軍もP-39艦上型のXFL-1エアラボニタを試作しています。
結局は圧縮衝撃波の件は過大評価であるとわかり、空冷でもカウリング形状の洗練で十分高速が出せるようになりました。
超音速
- >7
やはり専門家の解説は違いますねは(もちろん、皮肉ではなく本音です)。
ところで、そうしますと、ドイツがFw190で空冷になったのは、それも大きいのでしょうか?
諸説あるのは存じておりますが、御見解をいただければ幸いです。
hush
- 圧縮衝撃波の件で空冷オワタ\(^o^)/みたいに言われては空冷エンジンメーカーを始めとする空冷支持派は面白くありません。
強制冷却ファンやダクテッドスピナーを使えば圧縮衝撃波を避けられるとして空冷エンジンで進めたのがFw190ですね。
以前こちらで言及しました。
http://www.warbirds.sakura.ne.jp/ansqn/logs/A004/A0001039.html
ダクテッドスピナーは日本でもキ45で試され、米国でもP—61が設計段階で検討したことがあります。
超音速
- 文字化け修正
>P—61
「ノースロップ・ブラックウィドウ」です。
超音速
- 早速のご対応ありがとうございます。
hush
- なお、6.の検索結果に「冷却を自然放熱に頼る空冷式に比べて高空での性能低下が低い」という知恵袋のコメントがありますが、
1936年にレシプロ機の高高度記録(17,083m)を樹立したカプロニCa.161、およびそれと記録を争ったブリストル138A、質問1783で言及したロッキード・ベガ「ウィニーメイ」は全て機械式過給機つき空冷エンジンです。
超音速
- hush様、超音速様、ありがとうございます。エンジン、過給機の話って奥が深いですね。
かめ
- 昭和10年代の前半の頃は、(主に過給機についての技術がまだ途上にあったために)航空機用発動機の大馬力化についてまだ見通しがない時期で、双発にして全体として大馬力化する、もしくは、出力が同じでも前面抵抗面積を減らす、という方向で考えられていました。
前者はこの時期に重要な機種となった双発中型高速爆撃機に向かいます。
一方で後者は、例えば星形空冷発動機ならば二重星形に向かい、さらに小直径化する(瑞星のように)。あるいは、列型空冷発動機を実現させる、というふうに思考が進みます。列型空冷発動機は、列型液冷発動機なるラジエターを不要としたもので、列型液冷発動機以上の本命とみなされながら実現の目途が立たず、この道のりは消滅してゆきます。
キ61 三式戦闘機の発動機は、ラジエターがある列型液冷発動機でありながら、流体継手式の先進的な過給機を備えていることから、当時の日本で本命視されてゆくことになります。ラジエターさえなければ完璧なので、突出した冷却器を排した翼面蒸気冷却が最終目標に置かれたりもしましたが、これは日米開戦で中止されます。
キ61の後期型キ61IIは、この形の発動機の大出力化したものを搭載するもので、発動機の生産も可能な限り続いていました。
キ61の発展型で空冷発動機装備のキ100というのは、おそらくは排気タービン付過給機装備の空冷発動機を載せることで高高度戦闘機を得ようとしたものだったのだと思います。
排気タービン付過給機装備を未装備な段階での空冷発動機装備としたのが
キ100。排気タービンまでついたフルスペックの完成形がキ100IIです。
キ100系列に装備される金星(ハ112II)は、双発中型高速爆撃機用だった原形を持ち、無理に小直径化させることもなく、無理に高速回転させることもなく、比較的大きな出力を確保することができたものです。
片