1839 レシプロ戦闘機の主翼前縁の後退について
ラボチキシリーズの主翼は新型になるにつれて前縁が後退していき、他のソ連機でも同じような傾向が見られます。
一方で中島機やスピットファイアは前縁がほぼ水平で、性能が上がっても前縁が後退することはほぼありませんでした。
前縁の後退は何と何とのトレードオフだったのでしょうか?
ペンダント

  1. 世界の傑作機シリーズNo143 「ラヴォチキン戦闘機」の46ページ〜49ページの内容をを見ると
    ・主翼の翼型はNACA23016、翼端がNACA23010。付け根で16%、翼端で10%という数字は常識的なところ。
    ・LaGG-3の後期生産型から外翼部の前縁に自動スラットが追加された。La-9とLa-11には前縁スラットは付けられていない。
    ・La-9とLa-11は層流翼型を使ったまったく新しい主翼を使っている。構造は単桁式にされたと記述されているが、主桁は比較的前方にあり、後方の補助桁との間隔が広くとられ、大きな燃料タンクを入れられるようにしている。
    ・翼面積はほとんど変わらないものの、平面形は角ばった形状になり内翼部の前縁が主脚収容のスペースを確保するため前方に少し張り出した形状になってる。
    質問に関係ありそうなところを抜粋してみました。



    まさのり

  2. 主翼のテーパー比が小さいため、結果として前縁後退角が大きくなっていると思います。
    なお、翼根の弦長に対し翼端の弦長が小さいほど「テーパー比が小さい」と言います。
    デルタ翼だとテーパー比ゼロ、セスナの軽飛行機のような矩形翼だとテーパー比1です。
    テーパー比が小さいほど翼端失速傾向になるのですが、構造的には軽量にできます。
    ミグ、ヤコヴレフ、ラヴォチキンは主翼が木製のため軽量化が必須でした。
    エンジンの性能もドイツ機に対し劣るという事情もありました。
    翼端失速については、まさのりさんの言う通り前縁スラットで対策しています。
    Bf109も前縁スラットですが、ふつうは捩じり下げで対応します。
    La-9とLa-11で前縁スラットがなくなったのは、主翼も胴体も全金属製となり、テーパー比をやや大きくできたためだと思います。

    超音速

  3. テーパー比とは別に、前縁後退角が大きいと安定性は良くなるのですが、アウトフローといって翼表面の気流が外側に流れて境界層が厚くなり、剥離しやすくなって翼端失速傾向になります。
    九八式直協は捩じり下げに加え固定スロットで対策していますが、それでも翼端失速傾向となり、戦闘機なら許容できない問題とされています。
    DC-3は大きな前縁後退角ですが、あまり激しい機動をしないしそれほど深刻な問題にはならなかったと思います。

    中島機のような前縁後退角のない主翼も翼端失速対策となります。
    前縁後退角があると横滑りしたとき風下側の主翼が気流に対して後退角が大きくなって失速しやすくなるためです。
    このため横滑りしないよう方向安定を強化するのも有効な対策で、九九式艦爆はドーサルフィンを追加、F6Fは縦長の胴体で方向安定が良く、主翼に捩じり下げがないのに失速特性であまり問題になっていません。

    超音速

  4. まさのり さん 超音速 さん ありがとうございました!
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  5. 翼幅と翼面積が同じ前提で、主翼の面積重心を片翼で見た時、矩形翼は中間に、先細翼は先細比が強いほど内側に来ます。
    翼根の曲げ荷重は面積重心が内側にあるほど耐え易く、ジュラルミン製に比べ軽くも強くもない木金混成の主翼には好都合だと言えます。

    Me109の自動前縁スラット(負圧浮動)についての色々
    https://bf109.exblog.jp/468077/
    https://bf109.exblog.jp/468103/
    ガス欠

  6. ガス欠 さん ありがとうございました!
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