241 いつもご教授頂き有難うございます。
ドイツの艦載レーダーにお伺いいたします。

1944.10.25未明に発生したスリガオ海峡海戦では、日米合計7隻の戦艦が戦艦同士で交戦しております。
しかし有効な砲撃を実施できたのはMk8射撃用レーダーを搭載した「テネシー」(BB-43)「カリフォルニア」(BB-44)「ウェスト・ヴァージニア」(BB-48)の3艦のみで、「山城」及び「メリーランド」(BB-46)「ミシシッピー」(BB-41)「ペンシルヴァニア」(BB-38)は目標を把握できず、有効な射撃が出来ませんでした。

(1)同時期のドイツ式射撃レーダーは、当海戦で対応できたのでしょうか?
(44.10.25現在のレーダー装備を持ち、損傷していない「ティルピッツ」が参加していたと仮定した場合、「ティルピッツ」はスリガオ海峡海戦に対応できたのでしょうか?)
(2)米艦ではAスコープやBスコープなどを採用していますが、ドイツのレーダー指示機の表示方法はどのようなものだったのでしょうか?
(3)Mk3レーダー搭載艦はどのような問題があり、「山城」等を探知出来なかったのでしょうか?

よろしくお願いいたします。
Ranchan

  1.  誰も出られない様なので、手も空いてきたし取り敢えずもそもそと書き込んでみませう。

    (1)大戦末期のドイツ大型艦が射撃レーダーとして主要したFuMO27原型の距離精度はMk3と同程度で、後の改良型で改善はされますが米の戦艦用Mk8/英のType284Mの数分の一です。また方位精度は原型/改良型に共に変わらず、英米のレーダーと比べて同等以下です。このためMk8搭載艦程の活動が出来るかと言えば難しい物があるかと思いますが、後述のメリーランドの例もありますれば、射撃の機会に恵まれることは充分に有り得ると思います。
    (2)初期はAスコープですね。ただ1942年以降にBスコープ付きのゼータクトが計画された・ヴュルツブルグ高角射撃指揮用レーダーにBスコープを付けたという話もありますので、ティルピッツは潜航艇襲撃後の損傷復旧時あたりでレーダーの能力改善もやった、とも言われていますから、Bスコープ附属を含めた性能改善を実施した可能性はあるでしょう。
    (3)メリーランドの砲術士さんの手記には、「海峡内から反射する複数の目標の識別に問題があったので、射撃を控えていた」といった内容の記述がありますので、Mk3で捉えられなかった訳でもなさそうです。それもあるので、後にメリーランドはウェストバージニアの主砲弾が目標至近で上げた水柱の反射を捉えて、「おお、その目標が日本艦か」とそれに射撃を始める訳であります。
    大塚好古

  2.  遅ればせながら

    >有効な砲撃を実施できたのは
     当時のFCレーダーの機能・性能とスリガオ海峡夜戦での砲戦状況を考えれば、米戦艦の射撃は全くといえるほどほとんど当たっていない(当たるわけがない)ので、何をもって“有効”と表現するのかということがありますが・・・・それは別として

    >(2)
     射撃にはAスコープとBスコープの両方を使いますが、どちらか一方と言うことではありません。 Bスコープはレーダー・ビームを左右に振る(所謂セクター捜索方式)場合の目標の捜索・捕捉には便利ですが、これが射撃そのものに必須というわけではありませんし、特に測距と弾観の場合にはAスコープでなければなりません。 しがたがって、Bスコープの有無はFCレーダーを使っての本来の射撃そのものには大した影響はありません。

    >(3)
     Mk3やMk8の構成・構造や機能・性能についてどこまでご存じなのか判りませんが、レーダー・ビームを左右に振るのにMk3はを所謂「ビーム・スイッチング」方式で、またMk8は現在のフェーズド・アレイの様に(作動機構はちょっと違いますが)フェイズ・シフト方式で行っています。
     早い話が、両方ともアンテナそのものは固定してビームの向きを変える方法を採用しています。 これが現代ならともかく当時としては技術的に時期尚早で結果的に上手く行きませんでした。 したがって、すぐにアンテナそのものを機械的に左右に振ることによってビームを動かす方式に改善しました。 これがMk13です。
     そしてなによりも、Mk3もMk8も整備と調整に非常に手間暇がかかり、かつ技術を要しましたので、なかなか(というよりほとんど)スペックどおりの性能を発揮することができない代物でした。 これに加えて、各構成機器の構造が非常に悪く、特に中を触るのがスペース的にも構造的にも非常に難しいものでした。
     したがって、単にMk3よりは多少は改善されたMk8搭載艦の方が “当日何とか撃つことだけはできた” というのが実態です。

    (1)は“ifもの”の話しですので遠慮させていただきます。
    艦船ファン

  3. >2.
    自己レスの訂正です。
    >そしてなによりも、Mk3もMk8も整備と調整に非常に手間暇がかかり
           ↓ ↓ ↓
     そしてなによりも、Mk3もMk8もシステムの作動が安定しないため整備と調整に非常に手間暇がかかり
    艦船ファン

  4. お二方様、ご回答有難うございます。
    日米のWW2時のレーダーについては資料など見かけますが、ドイツ及びその他列強国のレーダーに関するものはほとんど見たことがなかったため質問させて頂きました。

    >大塚好古様
    ドイツは科学技術の国であり、大戦後もその技術は各国の軍事技術に影響を及ぼしたと言われますが、レーダーに関しては遅れ気味であり、同時期の米英製レーダーに性能では及ばないとは存じませんでした。ご教授有難うございます。

    >>艦船ファン様
    「第二次大戦のアメリカ戦艦」(海人社)中に
    「注目すべきはレーダーの性能による主砲発射弾数の差である。MK8搭載の3戦艦が225発(全体比92%)発射しているのにMK3搭載の3戦艦は3艦合わせて20発しか撃っていない。・・・レーダーの搭載の有無ではなく、搭載レーダーの性能の優劣が決定的影響を及ぼす段階となった」
    など記述されていたため、「MK3射撃レーダー(と22号電探)」と「MK8射撃レーダー」では性能に雲泥の格差がある(MK3では探知できない盲目状況でもMK8ならクリアに探知できる)と思っておりました。ご教授有難うございます。
    ・・・確かに上文内でも「発射弾数」であり「命中率」などではないですね。(^^;

    最後に申し上げますが、「もしスリガオ海峡海戦に『ティルピッツ』あらば・・・」の「IFもの」を論じたかった訳ではありません。

    伺いたかったのは、あくまで「ドイツ製艦載レーダーは、(スリガオ海峡夜戦のような)有効な光学的測距・照準手段ほぼなしの環境下における戦闘に臨める程の性能を持つものであったのか」です。
    言葉足らずであったことお詫びいたします。
    Ranchan

  5. >4.
     ご存じかと思いますが、当時のFCレーダーでは現在のような自動追尾機能も照準機能もありませんで、全てスコープ上の表示を人間の目で見ての手動操作になります。 そして当然ながら、Mk3にしてもMK8にしても、仮にカタログスペック通りに作動したとしても、そのレーダービームの特性から、射撃に使用できる精度のデータは距離のみであり、角度(上下及び左右とも)に関するデータはとても満足なものが得られない、つまり肝心な「照準線」を求める事ができません。 したがって、所謂有効な射撃を実施するためには、FCレーダーによる測距離と、「光学手段による照準」が絶対不可欠でした。

     また、例え正確な方位・距離データが得られたにしても、射撃計算のためには自艦及び目標がともに「等速直線運動」をしていることが前提ですから、どちらかが変針や変速をしている場合には正しい値が求められません。 通常、変針・変速後に新たに射撃計算をするためには最低でも定針・定速後3分間の計測が必要で、そのデータに基づきその後も引き続きその針路速力が相互に維持されているとの前提で射撃が行われることになります。 是非一度スリガオ海峡夜戦における砲戦時の相互の運動と射撃時間とを分析していただければ、例え米戦艦がFCレーダーで測距し得たとしても、正確な射撃計算を得た上でのまともな射撃がどれだけの時間実施可能であったかがお判りになるかと。

     以上の2点を併せて考えるならば、当該夜戦おいては、米戦艦の射撃は文字通り“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”の典型であったことが明らかです。 このことは、当時の技術からしてドイツ艦でも同じことが言えますので、これがご質問の(1)の回答になると言えばなるでしょう。
    艦船ファン

  6. 重ね重ねのご教授有難うございます。
    当時の「レーダー射撃」とはそう万能な物ではなさそうですね。

    (個人的には当時のレーダー射撃の優位点とは、「天候や気象条件等に左右されない」「遠距離になればなるほど光学式測距より誤差が相対的に小さくなる」位なのでは・・・と考えています。無論、これはこれで大きな長所ですが。)
    Ranchan

  7. >6.
    >天候や気象条件等に左右されない
     そうでもないですよ。 元々色々なノイズが非常に多い上に、ちょっと波が出ればシー・クラッターとして映りますし、もちろん雲や強い雨も全部映ります。 当時は現在の様にこれらを効果的に除去する機能はありませんでしたから。
    >遠距離になればなるほど
     逆にそのためにはシステムの作動が安定していることと、正確な機器の調整・整備が必要ということですね。
     ということで、皆さんが思っているほど当時のものは能力は高くありませんでした。 もちろん無いよりはマシですが。
    艦船ファン


Back