339  艦船というか造船技術についての質問です。

 何年か前に放送されたNHKのプロジェクトXで出光丸の建造を扱った際、日射による熱膨張の影響で船体が歪み、プロペラシャフトを通すことができなかったというエピソードが紹介されていました。

 出光丸は戦後初の巨大タンカーで全長340mを超えますが、機関は船尾にあり駆動軸の長さ自体はそれほど極端に長いわけではありません。出光丸よりも長い駆動軸を持つ艦船が戦前に建造されたことはあったと思うので、日射による船体の歪みからシャフトが通せないという問題に対するノウハウもあったのではなかろうか?と疑問に思いました。

 そこで質問なのですが・・・

1.日射による熱膨張の影響で船体の歪みが生じてしまう・・・その結果、長物・大物の取付けに支障が出る・・・という問題のノウハウはあったのか?なかったのか?

2−1.あったなら戦後、そのノウハウは一度失われたのか?

2−2.あったけど高張力鋼採用や建造手法の変化から戦前のノウハウは使えないような状態になっていたのか?

2−3.それとも番組の演出上大げさにあつかっているだけなのか?

 よろしくお願いします。
おうる

  1. 航空母艦「瑞鶴」建造時のお話ならあります。

    「・鉄は生きもの 絶えず動いている

    やがて『瑞鶴』の大きく長い船体がしだいに船台上ででき上がってくるが、それにともない技術的にむずかしい問題が生じてくる。
    それは、鉄というものが一日中常に動いていることからくる。・・・
    さらに困難な工事として、推進軸の中心線を出す工事がある。・・・
    このシャフトのラインをいかにまっすぐに通すかが最大のポイントであり、一つのノウハウであった。
    ・・・すなわちエンジンルームの前端に灯火をつけ、中間に何箇所かスリットを設けて、このスリットの小さな孔に光を通しながら位置を決める。
    今ならレーザー光線等で行い、操作も簡単だ。この技術が一番苦心したのではなかろうか。造船屋としてのノウハウである」(軍艦瑞鶴会編集発行『瑞鶴史』より、川崎造船所の元『瑞鶴』建造担当者・長谷川健二氏の談話より)

    (太平洋戦史シリーズVol.13「翔I型空母」(学習研究社)より)
    Ranchan

  2. 1.問題の「ノウハウ」とは、かかる問題の解決方法ということでしょうか。
    2.建築期間が長いと、夏季と冬季、あるいは日中と夜間の鋼材の熱膨張による伸縮、その他建造、建築に伴う重量の変化や溶接歪の蓄積等の各種の要因で生じる変形は、船舶に限らず、大型の橋梁、鉄筋構造の建築物等に生じます。これらは、各業界で種々の対処法が採られています。例えば、どこかに逃がしを設けておく、強制的に変形を防止する、変形が最小となる様にしつつ工事を行う等です。変形に対する許容度が厳しい場合には、例えば潜水艦等は、変形が少なくなる様に建屋で建造する等です。ノウハウは、決して失われていません。
    3.お尋ねの推進軸系ですが、船尾管軸受け(海水との境界の軸受け)は、戦前は木材、戦後から昭和40年頃まではリグナムバイタ(脂質の多い南米産の木材)を用い、海水潤滑でした。これは、現在よりも誤差に対する許容度が大きいです。
    現在は、船尾管はフッ素ゴム製のシールを用いた油潤滑であり、軸受けも金属製ですが、建造中に船体が固まった段階で、プロペラ側からレーザ等を用いて船尾管のボーリング、船内の中間軸の位置の決定を行います。この際、大型船では、プロペラが片持ちであるため、船尾方向に多少の傾斜をつける等の僅かな調整がなされます。それ以降の船体の変形、例えば積荷の有無や波浪に因る変形は、軸の変形、軸受けの油膜による吸収があるため無視します。これで、特に問題は生じません。
    4.戦前であろうが、現在であろうが、中間軸はプロペラ軸に比べて直径が細くて曲り易く、両持ちであるため、特に問題は生じません。
    UK

  3. 造船ではありませんが、下記は、巨大鉄鋼構造の芯出し精度が、いかに太陽光の熱膨張で難しいものになるか、映像的に実感できます。ご参考までに。

    NHKスペシャル 東京スカイツリー 世界最難関への挑戦 [DVD]

    頂部ゲイン塔のせり上げ作業の苦心とその精度たるや、恐ろしいものがあります。
    TOSHI!!

  4.  回答ありがとうございます。

    @ノウハウ自体は戦前からあり、戦後も失われていない。
    A船体構造等は時代と共に進歩しており、それに伴い新たな問題も生じているので、ノウハウが残っているからといって難易度が同じというわけではない。

     まとめるとこのような認識でよいのでしょうか?
     しかし、駆動軸を挿入する際の課題(船体のゆがみのために駆動軸がまっすぐ入らないことがある)自体はやはり戦前からあったようなので、番組であった「原因は分からないが駆動軸が何故か入らない」という紹介は誇張だったのだろうと思いました。
    おうる

  5. 4についてですが、テレビ関係者は素人であるため、何らかの錯誤や誤解が入ったと思います。まっすぐに入らないのは、プロペラ軸ではなくて、船尾管軸受けのことだと思います。船尾材は鋳造ですが、プロペラ軸を収納する船尾管軸受けは鋼鉄製です。このため、船体が固まった段階で船尾材を正確に孔空けし(ボーリングし)、船尾管も外径を正確に製造し、その上で船尾材の孔に船尾管を押込みます。この場合、船尾管は直径が大きいだけでなく、長さもあるため、両者の機械加工にはかなりの精度を必要とします。太陽の日射が厳しい時に機械加工を行うのはもっての他です。
     なお、参考までに記すならば、船尾管は中空の円筒状であり、内面には軸受け用の金属が張られています。そして、内部にプロペラ軸が収納されますが、プロペラ軸の外径と船尾管軸受けの内径には多少の隙間があるため、プロペラ軸がまっすぐ入らないことはありません。戦前であれば、軸受けは木材であるためなおさらです。
    UK

  6. 質問者様は推進軸が全長に亘って一体とお思いなのでしょうか
    駄レス国務長官


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