379 ワシントン海軍軍縮条約について質問させて頂きます。

この条約の結果、保有を認められた16インチ砲戦艦の保有数は日2隻:英2隻:米3隻となりました。
なぜ、米国のみ「3」なのでしょうか?
(単純に各国の保有主力艦の合計排水量を調整した結果でしょうか?)

宜しくお願いいたします。
Ranchan

  1. アジ暦の「海軍軍備制限二関スル条約 第一巻」(レファレンスコード50959500)の28ページ以降に英米側の主張およびその理由があります(あくまでも日本側が聞いた英米の主張ですから、本音は別にあるかもしれませんが)。

     ヒューズ(米国務長官)
     日本が摂津に代えて陸奥を保有することは認めてよい。しかしそのままだと、10対6の比率を日本が上回ることになる(陸奥の排水量−摂津の排水量分)。(なお、日本側は陸奥の保有が認められるなら対米6割は呑むつもりである。)
     また、勢力比については艦齢その他の点を考慮する必要がある。
     従って、日本の提案を認める場合には、米国はノースダコタ、デラウエアを除き、コロラド、ワシントンを入れる事を提案する。
     こうすると、日本の主力艦排水量は31万3300トン、米国は52万5850トンとなり、5対3の比率が維持できる。

     バルフォア(英外相)
     英国は戦後困難な状況にあり、ポストユトランド型戦艦を一隻も保有していない。あるいはフッドはポストユトランド型といえるかも知れないが。(とバルフォア自身がいう。)
     米国がポストユトランド型3隻、日本が2隻を保有するのであるなら、5,5.3の比率を維持するため、英国はポストユトランド型の戦艦2隻を建造する必要がある。もちろんそれに対応する旧式艦は廃棄する。

     日本全権(記録には名前がないが加藤友三郎であろう)
     英国に同情の意を表し、英米の提案は、訓令の範囲外であるが同意するにやぶさかではない。

     その後、英国の廃棄艦をどうするかとか、英国が新造艦の排水量を3万8千トンにすることを望んだりとか、いろいろ細かい点でもめますが、この線で落ち着きます。

     英国にはお金がないというのが最大の理由でしょうが、フッドを含めれば、ポストユトランド型3隻、3隻、2隻という理屈も立つでしょう。
    カンタニャック

  2. 申し訳ない。アジ暦のレファレンスコードを、コピーミスしました。
    正しくは以下のナンバーです。

    B06150959500
    カンタニャック

  3. 376に書くべき事かもしれませんが、前後の資料を読んだ感想としては、「陸奥の廃棄は国内で政治問題と化しており世論の反対も強く、陸奥を廃棄する条約にはとうてい調印出来ない。」という日本代表の主張に配慮して、アメリカ側が妥協案を示し、日米の新戦艦建造を阻止したいイギリスも、条約成立のためにはやむを得ないということでそれを受け入れたというように思えます。
    カンタニャック

  4. ご回答有難うございます。
    巡洋戦艦「フッド」がワシントン軍縮会議交渉でビッグ7(尤も、当時は2隻しか存在していませんが・・・)と同格とみなされていたとは存じませんでした。

    「ビスマルク」に轟沈させられたことで「いくら強力と言えど、所詮は巡洋戦艦」と軽く見られがちの艦ですが、その能力と重みを見直すべきなのでしょうね。
    Ranchan

  5.  三カ国の会議は、「ポスト・ユトランド」をどれだけ持てるかの議論になっており、16インチ砲戦艦を何隻持てるかという議論はありません。英国の新造戦艦についてももっぱら問題となっているのはトン数で、すでに4万トン級のフッドを持っている英国としては、出来れば4万〜5万トン級のフネを作りたいというのが本音のようです。
     英国の建造案は、第1案が改フッド級(Super Hood と表記)約5万トン2隻を建造し、キングジョージ五世級4隻+レパルスをスクラップ、第2案が3万5000トン級二隻を建造し、キングジョージ五世級4隻をスクラップというもので、第1案には当然日米が難色を示しますが、第2案についてもバルフォアは3万5000トンでは不十分なので3万8000トンはほしいと粘ります。(このあたりで、バルフォアが英トンと米トンの違いをもとにトン数の増加を主張するのですが、このロジックがよくわかりません。最終的な条約の単位は英トンなので、最初から英トンで話しているものと思っていたのですが、交渉途中の当事者間では英トンと米トンとメートルトンが混交していたのかもしれません。)
     結局この時点での日米英三国の当事者合意では、英国は3万500トン級(ただし英トンと明記、したがって米トンだと3万8000トンぐらい)2隻建造、キングジョージ五世級4隻スクラップでまとまります。
    カンタニャック

  6. 「PJ型戦艦をどれだけ持てるか」という議論はそのまま「16インチ砲艦をどれだけ持てるか」という議論ではないでしょうか。
    トン数議論に終始したのは議題がいまさら備砲を変更できない既成艦の存廃であるからで、議論がほぼ決着した段階でこれから新造する戦艦の備砲を16インチに制限する動議が出て、とくに反論もなく可決されている点からも、PJ戦艦=16インチとの共通認識の存在が窺えます。
    ですから議論の中でフッドを「准PJ型」としているのは定量的に示しがたい巡洋戦艦としての性能によるというよりも、その砲力が劣るためであると考えるのが妥当で、英国は会議後に2隻を新設計で建造できる優位をフッドと新造艦のトン数で相殺されていると読んで良いと思います。
    BUN


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