1052  終戦時国内に残存していた軍艦のうち、賠償艦として外国に引き渡された駆逐艦、海防艦以外の戦艦、空母など大型艦は解体されスクラップになりました。しかし潜水艦は、五島列島沖その他海域において水没処分されました。なぜ潜水艦は解体が許されなかったのでしょうか。
電気戦艦

  1.  撃沈されたのは、潜水艦だけではありません。敗戦時、日本に残っていた戦艦長門、巡洋艦高雄、妙高、酒匂は、実艦標的もしくは海没処分となっています。残りの大型艦艇は擱座、もしくは行動不能状態であったために沈められなかっただけです。
     例外となったのは空母鳳翔、葛城、巡洋艦八雲、鹿島と前述の酒匂、それに潜水母艦長鯨等ですが、これらは復員引揚輸送に使われています。あと、空母隼鷹、笠置、巡洋艦北上も残っていますが、外洋航海ができない状態でした。
     したがって、復員引揚輸送やもう一つの重要な柱であった掃海作業に使えない潜水艦は、真っ先に処分される運命にあったのです。
     当然、復員引揚輸送に使われた鳳翔以下の艦艇も撃沈されるはずでした。アメリカは旧日本海軍の戦艦、巡洋艦、潜水艦などの大型艦艇はすべて破壊し、駆逐艦や小型艦艇をアメリカ、イギリス、ソ連、中国(中華民国)の4ヶ国で均等に分配すると、ヴィンセント国務省極東局長から中国、イギリスの駐アメリカ大使館に連絡しているからです。
     それが変更されたのは、アメリカの事情です。経済の悪化と1948年に行われる大統領選挙を見据えると、日本占領に関わる費用をアメリカ国民の税金で賄うのはまずいという判断があったからです。また、中国における共産主義勢力の伸張により、占領政策に大きな変化が生じていました。このため、残存艦艇を日本政府に返還し、小型低速の艦艇は漁業もしくは沿岸貿易にあて、大型艦艇はアメリカの負担で回航させる費用を生じさせることなく、日本国内で解体するとなったのです。うち、アメリカに譲渡された艦艇については、日本政府に売却され、返還艦艇については、後日、適正価格での支払いを求めるとなっています(これが実施されたかどうかは存じません)。
     
    hush

  2. hush様 詳しい説明して有り難うございました。ヴィンセント通達は興味深いです。
     長門、酒匂は自力航海が可能であることから、米軍は原爆実験用に利用することを考えたのでしょう。高雄、妙高は終戦時シンガポールにいました。最初英軍が引き取る予定でしたが、居住性が悪いので断り、マラッカ海峡で海没処分されました。鹿島は1924年に解体ズミです。
     今更日本の潜水艦沈めても意味はないのですが、ローマがカルタゴの土地に塩をまく気分だったのでしょうか。
     戦艦をスクラップにすると値打ちのあるものがずいぶん取れました。アーマー、砲身などにニッケルその他貴重なモノがたくさん含まれていたからです。
    電気戦艦

  3. >鹿島は1924年に解体ズミです
     それは先代ですね。1に書いたのは練習巡洋艦のほうです。
     
    hush

  4. hush様 有り難うございました。練習艦香取の名前はうっすらと聞いていましたが、鹿島の方はまったく知らなかったです。ついでに質問させて下さい。香取も鹿島もタービンとデイーゼルの併用となっています。航行時は、1.タービンのみ、2. デイーゼルのみ、3.タービン・デイーゼル併用、の3種類になると思います。するとフルカン継ぎ手は2基のデイーゼル機関回転数を同一にするためと考えてよろしいですか。または、タービン減速機からの回転数を同軸のデイーゼル機関の回転数に合わせるということはありませんか。
    電気戦艦

  5. 香取型練習巡洋艦はですね
    計画全力 タービン4,400shp+内火3,600shp=8,000shp/280rpm
    内火機械 1基1.900shp/500rpm フルカン継手減速比0.572 同スリップ2%で500rpm×0.572×0.98=280rpmとなります
    つまりタービン減速機の回転数にデイーゼル機関の回転数を合わせるということになります
    以上「海軍造船技術概要」に拠る
    駄レス国務長官

  6. >2
    >居住性が悪いので
     Wikipediaの妙高の項にはそう記されていますが、出典も示されていない記載です。あまり信用しないほうがいいと思われます。
     イギリスが自国海軍に編入しなかったのは、居住性云々より前に、単に必要性がなかったからだと思っています。
     だいたい、賠償もしくは鹵獲した大型艦艇を自国艦隊に大々的に編入したのは、近代では日本ぐらいで、大抵の場合、解体して得られた屑鉄の売却利益を国庫に収めるぐらいではないでしょうか。
     日露戦争で得た艦艇を編入した日本も、艦隊で同一行動を取らすのにも不便で、多大な改装費用を新造に回したほうがよかったといわれています。
     海没処分にされたので例には入れましたが、あの両艦は行動不能状態でした。これを修理して艦隊に編入するほどの価値は、イギリスにはなかったと思っております。

    >5
     さすがですね。
     
    hush

  7. >6.
    お褒めいただいといて何ですけど

    > 賠償もしくは鹵獲した大型艦艇を自国艦隊に大々的に編入したのは、

    WW1後の仏伊が独墺の小巡と駆逐艦を相応に編入供用してますけどそこは
    駄レス国務長官

  8. >7
     ご指摘ありがとうございます。巡洋艦に限っても5隻ずつですから、大々的にの範疇に入れてもいいのかもしれません。私自身のイメージでは、大型艦というのは主力艦だというのがありましたので、このあたりは無視したのですが。
     ただ、これらの巡洋艦も、2次大戦まで生き延びたものもありますが、植民地警備やそれに准ずる任務を与えられものが多く、艦隊での使用はあまりなかったようです。
     
    hush

  9. 戦艦「大和」が沖縄特攻に出撃できず終戦時残存し、アメリカに接収されUSS「モンタナ」(BB-65)となり戦後を生きる・・・という架空戦記がありますが、「大和」をアメリカ海軍に編入しても使い勝手が悪すぎるし、そもそも戦艦が余っているアメリカ海軍に編入する意味がないのでありえないよぁ・・・と思ってしまいます。

    やはり軍艦はその国での使用に特化しているので、他国海軍で使用しても上手く行くことはあまりないのでしょうね。
    Ranchan

  10. >9
     2次大戦後戦艦は艦隊の主力としての意味を失いますので、艦隊の重要要素ではありません。ただ、朝鮮戦争でも、ヴェトナム戦争でも、陸上への艦砲射撃には使われています。そういう中で、もし、大和が生き残っていたら、その46サンチ砲は最大の火力です。そのように考えていくと、大和を保有する意味が全然ないわけでもないのです。
     ただ、もし、アメリカが大和を保有するのなら、他の連合国、特にソ連が黙っていないでしょう。というのは、降伏したイタリア戦艦の譲渡を巡って、貸与されたイギリス戦艦の返還も含めて、様々な駆け引きがあったからです。したがって、大和の所有権をすんなりと認めるとは思えず、長門を代わりに寄越せということになるのではと思っています。
     実のところ、アメリカが早期に日本の艦艇を撃沈処分したのは、このことが念頭に会ったのではないかと疑っています。ただ、これは推測に過ぎませんし、証拠も何もない話です。
     なお、モンタナが山とか山が多いという意味なので、大和を改名するには相応しい名前であるのかもしれませんが、BB65はいただけません。この艦番号はアイオワ級戦艦の5番艦イリノイのものだからです。そして、アメリカの場合、一度使用した艦番号は、実際に建造されなくても、再使用しないからです。
     
    hush

  11. >BB65はいただけません。この艦番号はアイオワ級戦艦の5番艦イリノイのものだからです。

    仰られるとおりなのですが、作中ではそうなっているのです・・・。
    (本来はモンタナ型戦艦最終艦「ルイジアナ」(BB-71)に続きBB-72かなと思うのですが)
    Ranchan

  12. >11
     あっ、ごめんなさい。
     もちろん、こういうつまらない指摘は作者に対するものでして、
    そちら様にではありません。
     しかし、日本が最終的に勝たない架空戦記もあるんですね。
     
    hush

  13.  皆さま 色々議論ありがとうございます。帆装戦列艦の時代は、英仏が捕獲した相手の船を自軍に加えて普通に戦っていたようです。日本の潜水艦は戦後アメリカ軍の所有物になりましたが、アメリカが自らそれらを海没させたわけですから、現在これらは無主物ということになり、海底にとどまる巨大な廃棄物ということになります。
     ノルウェーのフィヨルド内で横転していたテイルピッツは、Wikiによれば、戦後ノルウェーとドイツ(おそらく西)の合弁会社が解体処理したとのことです。では、ナルヴィク海戦で沈んだドイツ駆逐艦10隻、英駆逐艦2隻はどうなったのでしょうか。引き上げられたのでしょうか、それとも沈んんだままのものもあるのでしょうか。
    電機戦艦

  14.  ドイツはさらに潜水艦も一隻沈められています。
    電気戦艦

  15. >13 沈んだままのものもあるのでしょうか
     ノルウェーの海図は https://www.norgeskart.no/#!?project=norgeskart&layers=1002&zoom=4&lat=7197864.00&lon=396722.00 で見られますが、沈没船情報まで載っていなかったので、個々に当たってみたところ少なくとも2隻は沈んだままのようです。
     Z2 水中にあるそうです。
     https://web.archive.org/web/20050211202303/http://www.skovheim.org/located/nordland/gthiele/gthiele.html
     Z12 2011年に同艦の操舵室にあった青銅製の鷲の置物が引揚げられたとありますので、海中にあるものと思われます。
     https://www.vg.no/nyheter/innenriks/i/qGmEO/fant-nazi-oern-paa-havdypet-etter-71-aar
     なお、海中にあっても無主物とは限らないと思いますが。
     
    hush

  16. hush様 得難い情報ありがとうございました。流石にフィヨルドとはすごいものです。陸地のすぐそばで水深60mあるとは、U字谷は本当だったのですね。ワシというものはヨーロッパではローマの時代から特別な意味があるのかとふと思いました(ローズマリー・サトクリフ「第九軍団のワシ」)。近世海事史を知る上でノルウェー語も重要であると思いました。米軍が接収した日本の潜水艦のことですが、もし米軍側が、これらを放棄する、と正式に発言していれば、無主物であると思うのですが、「日本軍の残党に利用されないように水に浸けている」ということなら、いまもアメリカの財産かと思います。Wiki見ますと、戦闘中に沈んだ船は元の国の物であるが、自沈すると所有権は失われる、とありました。確かにグラーフ・シュペーはアルゼンチンのもので、彼らは引き上げた部品を展示しています。日本の比叡はどうなるのでしょうか。
    電気戦艦

  17. 16.で アルゼンチン とあるのは間違いです。ウルグアイ が正しいです。
    電気戦艦

  18. >16
    >陸地のすぐそばで水深60mあるとは
     氷期の終了とともにスカンディナビヤ半島を覆っていた氷雪が融け、重量の軽減により隆起し、厚さ数kmの氷河が西側に流れた結果ですからね。
    >ワシというものは
     第3帝国自体が、神聖ローマ、帝政ドイツを受継ぐものという意味ですからね。もっとも、西ドイツ時代からも国章は鷲ですが。
    >比叡はどうなるのでしょうか
     https://www.nauticalarchaeologyjp.com/news/201807202395.html
     上記に「自沈した場合は、戦闘中であれば撃沈されたものであると想定しているようです」とありますので、比叡も日本国の財産となりそうですが、明確な規定はありません。遺骨収集の場合、同艦はソロモン諸島という独立国の領海内にありますので、そちらの許可はいるだろうなと思っています。
    >17
     気がつきませんでした。
     
    hush

  19. >18
    所持しております「伝承・戦艦大和 下巻」(光人社)では

    「戦艦『大和』は公海に沈んでいるので他国に引き揚げられても文句は言えない」
    「サンフランシスコ講和条約により日本は戦艦『武蔵』を含むあらゆる国外に沈んでいる艦船の所有権を放棄したので、現在『武蔵』の所有権を有するのはフィリピン政府である」

    とあるので、戦艦「比叡」ももう日本の国有財産ではないと思っていましたが、どうもアレな内容のお話みたいですね。

    著名な会社の歴史ある本でも、鵜呑みにしてはいけないようです。
    Ranchan

  20. >19
     御教示感謝申し上げます。
     たしかに、サン・フランシスコ講和条約第14条(賠償、在外財産)に「各連合国は、次に掲げるもののすべての財産、権利及び利益でこの条約の最初の効力発生のときにその管轄の下にあるものを差し押さえ、留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する」とあり、さらに、(a)として日本国及び日本国民等が掲げられいますので、在外資産については放棄したと考えられます。
     https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page22_002285.html
     これに対して18に掲げました2003年の日本政府の回答は、この講和条約の条文に反するようですが、訳されていない部分に"According to international law"とあります。つまり、「国際法に従って」です。国際法によれば保護されるものであるという見解なのでしょう。
     また、「海の墓として尊重されるべきである」というのは、講和条約の例外規定である「宗教団体又は私的慈善団体に属し、且つ、もっぱら宗教又は慈善の目的に使用した財産」の拡大解釈とも取れます。
     しかし、戦後レジームからの脱却などと叫んでアメリカの不信感を招いたりしていますが、講和条約自体は廃止されていませんので、この小泉政権下の回答は、理解に苦しむもののように思います。
     となると、御紹介いただいた本の著者である原氏の見解のほうが正しいように思えてきました。
     回答者が右往左往して御免なさい。
     
    hush


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