41  ナチス政権時代のドイツ空軍について質問します。
 
 空軍最高司令部隷下の最大編成単位の事を "Luftflotte" 「航空艦隊」と称していますが、空母兵力とはほとんど縁のないドイツ空軍でこのように命名されたのはどのような理由からでしょうか。

 ご教示よろしくお願いいたします。
DDかず

  1. 単純に言語としてそうなっただけではないかと思われます。
    例えば英語でも、

    convoy fleet

    を陸上のコンボイトラックの集団に対して使ったり致しまして(もちろん輸送船団にも使う)。

    #命名ってのは明文規則があったりなかったりなので、何故を問うのが結構難しい領域ですよね。
    #芸能人の集団に過ぎない面々に「石原軍団」と名付ける事例もあったりしますし。

    satoski

  2.  個人的な邪推ですが、海軍がHochseeflotte(大海艦隊)と名づけたことに対する空軍側のバランス意識が働いたからではと。
    RNR

  3.  御二人、ありがとうございます。
     やはり確証できるものではなさそうですか。私自身もsatoskiさんのお考えに近かったのですが、ひょっとしたら、という期待もあり質問に上げてみた次第です。
     "squadron" が海空共通なら "Flotte" もアリなのかな、と思うことにします。
    DDかず

  4. 遅まきながら、あまり内容のない長レスを…

     新しいモノが出てくれば新しい名称が必要になるわけで(日本でも飛行機を一個二個と呼ぶべきか一台二台と呼ぶべきかはたまた一隻二隻とすべきか悩んだ末に、一機二機に落ち着いています)、これは新しい組織も同じです。近代的な軍事組織となるといくつもの組織名称が必要になりますから、ある程度までは独自の言葉を使えても、残りは既存の陸海軍の類似名称をそのまま借用するか、あるいはちょっと改変して使用することになります。
     航空関係の組織で完全にオリジナルの名称となると、私がすぐに思いつけるのはWingぐらいです(ただし、これも部隊の右翼左翼のWingの借用と見ることも可能ですが)。
     ドイツの場合、小隊がSchwarm(英語だとswarm、群れ、特にハチの群れなど)、中隊がStaffel(チーム、隊列、軍事用語としては梯団か)、飛行隊がGruppe(グループ、陸軍だと分隊か)となり、このあたりで独自名称は種切れになり、その上の航空団がGeschwaderは英語のSquadronに対応する言葉(ただし英米航空隊のSqadronのサイズはほぼStaffelに相当)で、海軍用語では「戦隊」になります(元をたどれば騎兵隊(騎兵大隊)ですが)。その上は航空師団(Fliegerdivision)、 航空軍団(Fliegerkorps)ですから、陸軍の師団、軍団に飛行(Fliege)をつけただけです。
     Geschwaderを除けば由来のはっきりしているものは陸軍起源ですから、そのまま、陸軍準拠で航空軍(Fliegerarmee)や、航空軍集団(Fliegerheergruppe)としても良さそうですねえ。

     これで終わるのはシャクなので、RNRさんの驥尾に付して独自見解。
    Luftflotteを直訳すれば空中艦隊(Luft=空気、Flotte=艦隊)、これはイタリアのドーゥエ将軍の空中艦隊思想のへの敬意の表現ではないかと。すくなくとも、飛行軍集団よりも、空中艦隊のほうがずっとカッコいいですし。
    カンタニャック

  5. 蛇足:  飛行機を「船」と捉える発想があるらしく、そのため英国空軍は陸軍とはかけ離れて、組織・階級・服制が海軍寄りです。独軍も然りなのでしょうね。フロッテと云っても格別な違和感はない様子です。尤も独海軍はもともと陸軍化していたので、余計にそうなんでしょう。
    あるめ

  6. ミッチャムの「ドイツ空軍戦記」より

    この時にドイツ空軍の重大な弱点が表面に表れた。各地方管区を基盤とするという組織の性格が、機動性の高い航空部隊の作戦行動に適合していなかったのである。(中略)一九三八年七月一日までに、これまでの地方航空管区(ルフトクライゼ)は、地区航空管区(ルフトガウ)と管区数個を統轄する空軍部隊群(ルフトヴッフェグルッペ)と方面空軍司令部(ルフトヴッフェコマンド)に改編された。
    (中略)
    一九三九年四月一日、第1、第2、第3航空部隊群とオーストリア方面航空司令部は各々第一、第二、第三、第四航空軍と改称された。※引用者註、これらがいわゆる航空艦隊かと。

    すみません、酔っているので見つけられずにおりますが、「ノルウェー方面を担当する第五航空軍は根拠となる管区を持たなかった」旨もあったかと思います。

    さらにすみません、ソース失念ですが、「艦隊」としたのは海軍に倣った(空は陸出身が多いわけですが、だからこそ)のと同時に、「根拠地から進出し、根拠地と縁が切れても補給その他含めて独立した戦闘単位であり得る」ことを艦隊になぞらえたため、という話を読んだ記憶があります。日本でいうところの「独立なんちゃら」をシステム化したものかと。直協的性格が強い独空軍の、「進出速度の差を考えてくれよ〜」とも感じます。




  7. カンタニャック氏

     ご示唆いただいたように陸軍準拠で航空軍(Fliegerarmee)としても良かったはずなのに,空中艦隊(Luftflotte)にしたのはドーゥエへの敬意の表れがあったというお説には同意するのですが,果たしてそれだけかしら?というのが…
    RNR

  8. >4 訂正
    飛行(Fliege)→ 飛行(Fliegen)

    >6
    ありがとうございます。
    35年からLuftflotteがあったものと、思いこんでいました。

    五さんのお教えに従い検索かけたところ下記のサイトに詳細な記載がありました。

    http://www.ww2.dk/
    (で、Air units→Higher Headquartersへ、 Ground units→Higher Headquartersにも関連情報あり)

    ※ 以下個人的な趣味でLuft=空中 Fliegen=飛行と仮訳「司令部」の訳については突っ込まないで欲しい)

    大枠としては、時間軸で見ると、
    Luftwaffe(空中軍)成立時からのLuftkreiskommando (空中集団司令部)が、
    38年に統合されてLuftwaffengruppenkommando (空中軍グループ司令部) になり、
    39年に、また分割再編されて、Luftflotte(空中艦隊)になる。

    Luftfllotte(空中艦隊)の下には、
    本国とソ連、フランス等にはLuftwaffenkommando(空中軍司令部)が(例外的にOKL直属もある)、
    その他の同盟国や占領国にはKommandierende General der Deutschen Luftwaffe in ○○(国名)(○○駐屯ドイツ空中軍総司令部)が置かれる。
    その下が飛行軍団(Fliegerkorps)、飛行師団(Fliegerdivision)だが、Luftflotte直属の飛行軍団、飛行師団も多い。

     それ以上は頭が痛くなってきたので、若くて才能と余暇のある方にお任せします。

     しかし、こうしてみるとやはりLuftflotteだけ浮いてますねえ(ああ、ダジャレだ。ゴメンなさいゴメンなさい)。
     本題にかかわりそうな点として気づいたのは、軍団、師団以下はFliegenなのに、その上は全部Luftな事です。下部組織では「飛行」という機能が重視されるのに対して、上部組織では「空中」という領域が意識されるということなのでしょうか。

    >7
     単なる思いつきですから、いい御意見があればいつでもしっぽをまいて退散します。おてやわらかに。
    カンタニャック

  9. 私も調べるのはどなたかお若いかたにまかせて疑問だけ出すズルをしますが・・・戦間期ドイツで盛んであった「青少年航空団」「勤労者航空団」的な各種団体は、Luft と Fliegen のどちらが多かったのか気になりました。
    また、WW1時はどうだったのでしょうね。飛行機と飛行船では関係者の意識に違いがあっても不思議はないかもしれない、と、「地獄の天使」を想起したりしております。


  10.  みなさん、ありがとうございます。
     なんだかものすごく雑学知識がつきました。
     五さんがおっしゃるような、サッと移動して目的地にパッと展開する航空基地の機動性、という意味では「艦隊」的な感じもしますね。
    DDかず

  11. 私もあんまり若くはありませんけれども、カンタニャックさんの尻馬に乗って。

    1934年から1938年まで、ドイツ空軍の最上位地域司令部は7つのLuftkreiskommando I〜VIIでした。ドイツ陸軍の場合、Heer(実施軍)と教育訓練・地域自衛を担当するErsatzheer(予備軍)がはっきり分かれていて、後者は常設の軍管区(Wehrkreis)が基本的単位です。徴兵の枠組みですからめったに変更されないし、一時的占領地にはいちいち拡張されません。それを思わせる名を持つLuftkreisは、実施軍と予備軍をチャンポンにした空軍大管区であったと思われます。

    1937年になって、もっと細かく区分されたLuftgau(空軍管区)それぞれに司令部ができ、Luftkreiskommandoに属しました。これは対空砲などによる地域防空、対空哨戒、飛行場の管理などを司りますから、占領地管理のためにFeldluftgauという司令部がついていきましたし、安定するとLuftgau-Kommando Kiewなどというふうに追加されていきました。

    さて1938年、東プロイセンのLuftkreiskommando IだけがLuftwaffenkommando Ostpreussenに改称され、残りは2つずつ統合されてLuftwaffengruppenkommando 1〜3となりました。これは明らかに陸軍のHeeresgruppenkommando(軍集団司令部)とパラレルなネーミング。つまり予備軍司令部としての性格を弱め、野戦司令部であることを明確にしつつ、陸軍の最高単位と同格だとアピールしたと考えられます。

    これが1939年にLuftflotteと改称されるのですが、実質何も変わっていないのですよね。Wikipedia「ポーランド侵攻」によると1938年のうちから、ポーランド回廊に道路を通させろと言うドイツのポーランドへの要求はあからさまになっており(1938年と明示されているのは英語版)、3月には英仏がポーランドへの軍事援助を保証しました。1939年2月の改称は政治的な恫喝であったかもしれません。ドイツはもっと長ったらしい名前を部隊名に色々使っていますし、いろいろな略称を駆使するドイツ人にとってこの程度は苦でもないでしょう。

    第一次大戦中にもLuftflotteという名称は使われていません。Luftschiffertruppeを含むドイツ空軍の全体名称としてはLuftstreitkraefteが使われました。
    http://de.wikipedia.org/wiki/Luftstreitkr%C3%A4fte_(Kaiserreich)
    「青少年航空団」は当初Deutscher LuftsportverbandだったのがNationalsozialistisches Fliegerkorpsになっていますので、「飛ぶこと」と「飛ぶもの」程度の違いなんでしょう。
    http://de.wikipedia.org/wiki/Nationalsozialistisches_Fliegerkorps

    Luftは地上部隊を含む場合、Fliegerは空を飛ぶ部隊だけの場合に使うように思います。降下猟兵師団は1943年から使われた呼称で、それまでは7. Flieger-Divisionでした。第7であったのは、航空機部隊を集めた6つの飛行師団がすでに存在したからです。地上勤務師団ならぬ空中勤務師団と言うところでしょうか。

    マイソフ


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